「先輩!さようなら」
玄関の前で俺と楓に手を振りながらそう言って家の中に入っていった。
「俊は優しいね」
ドアが完全に閉じたところで楓は俺にはそう言った。
「え?優しい?どこが?」
「だって俊の家、真反対じゃん。それを言わないで後輩ちゃんを家まで送ってあげたりして。私、俊のそういうとこ好きだよ」
楓が俺に『好き』と言ったことに対して思考が停止していると楓がすぐに訂正をした。
「あ、別にそういう意味じゃないけどね」
少しだけガッカリしたが、それはそれでいいと思った。今は。
「…わ、分かってるよ」
俺はこの気持ちを閉まっておくって決めたんだ。
「じゃあ、私はここまででいいから俊は自分の家に帰りな?」
まだ佐伯の家から歩き始めてないが、楓は俺にそう言った。
「いや、最後まで送るよ。もう遅いし」
これは優しさも含めてただただ俺がまだ楓と一緒にいたかった。心の中に閉まっておくと言っておきながら我ながら矛盾してるがこれくらいはさせて欲しいと思った。
「絶対そう言うと思った。でも、いい。それより早く家に帰って彰の話し相手になってあげて?」
そう言って楓は手を大きくヒラヒラさせながらおばあちゃんの家の方へ走って行ってしまった。