「でも、調子が戻ってくれて良かったです」
今度は屈託のない笑顔でそう言った。
佐伯もここにいる部活仲間も彰が部活を辞めた理由は知らない。もしかしたら顧問の先生すらも知らないかもしれない。この学校で俺と楓しか知らない。でも彰には知らないフリをする必要がある。あくまで知っているのは家族であり姉弟である楓だけ。
「うん。本当にありがとう。とりあえず今日は一緒に帰るか」
俺は静かな声で佐伯にギリギリ届くくらいの声でそう言った。改めてお礼も兼ねて話したいことがあったのだ。
「先輩かそんなことを言うなんて珍しいですね」
佐伯はくすくすと笑ってから「わかりました」とだけ言って、帰る支度をするために女子更衣室の中に消えていった。
俺は既に帰りの支度が済んでいるのでゆっくり校門に向かった。数分待っていると楓が校舎から出てきて校門を通った時に俺に声をかけた。
「また、あの子待ってるの?」
嘘をつく理由はないし、言い訳も考えてある。