「いいけど…いいのか?」
「いいからいいから」
俺は彰の焼肉弁当の肉を一欠片もらい、お返しに卵焼きを彰の弁当に置いた。すると、すぐにその卵焼きを口に運んだ。
「相変わらず俊のお母さんの卵焼きは美味いな」
彰がそう言ったのは理由がある。彰と楓のお父さんが出張で家を空ける時、大抵は俺の家で二人を預かっていた。だから、必然と俺の母親の手料理を食べることは多々あった。
「彰の肉も美味いぞ。」
「……それ俺が作ったわけじゃねーからなんて返せばいいか分からないわ」
思わず、二人して笑ってしまった。
少しだけ昔の彰に戻ったみたいで嬉しかった。
そんな彰の姿を見て楓から聞いた事実が頭をよぎった。そのせいで目から涙が出てしまった。
必死に目をワイシャツの袖で拭いたが頭と目が言うことを聞いてくれず止まらなかった。
「…どうした?」
彰に顔を覗かれハッと我に返った。
「ごめん。目にゴミが入っちゃって……」
苦しい言い訳かもしれないが仕方がなかった。