「ここ、久しぶりに来たわー」
独り言のように話しかけた。
「そうだね…」
まだ、いつもの楓には戻ってはなかった。それは俺が既に彰の病気のことを知ってしまっているからか、それとも普通に具合がまだ悪いのか…。
「具合はどう?」
それを確かめるためにそう聞いた。
「熱はさっき測ったけど、朝よりは落ち着いたかな」
「あのさぁ、朝のこと…ごめん」
『朝』と聞いて、まず謝るべきだと思った。
彰が病気にかかったという事実をまだ信じきれていない自分が少なからずいたから楓にあのようなことを言ってしまった。でも、『ああ、これが現実か』そう思った。
「なんの事?」
楓は本当に何も無かったようにそう言った。
「朝、俺が変なこと言ったじゃん。」
「変なこと?」
「うん。彰が病気で死ぬかもしれないのに呑気なこと言った。本当にごめん」
両手を床につけて頭を下げた。すると、楓はベッドから起き上がり、俺の頭をそっと撫でた。