「分かりませんが、いいんですよ。あなたからはどこか…懐かしい感じがして安心するので。それと、留守だった場合もしかしたら海の方にいるかもしれません。」
俺は再び頭を深々と下げた。渡された紙を見ると俺たちが随分前に行った水族館に近かった。もしかしたらその水族館はなくなっているかもしれないけど。
「ありがとう…ございます。」
そして、俺は泣きそうになりながらも頑張って堪え、お礼を言ってその場を後にしようとした。
「車…出しましょうか?」
「あ、いえ。連れがいますので…お気遣いありがとうございます。後…」
これは言うか迷った。でも言わざるを得なかった。傍から見たら、完全におかしな人だ。でも、どうしても言いたかった。
「後?」
「元気に育ってくれて…ありがとう」
「…………え?」
思った通りの返事だった。でも、それでも良かった。本当に元気に育ってくれて嬉しかった。この人は本当は同姓同名のただの関係のない人かもしれない。でも、どこか懐かしい感じがした。
「すみません。では、また。どこかで」
本当にこの人が俺の息子ならどこかで会うことは確実だろう。だから、そう言ってから俺はその部屋を後にした。