ハッと我に返った時には既に月が街を照らしている時間帯だった。
我に返った理由は彰からの鬼電だった。携帯の画面を見ると時刻は八時半を指していた。俺はとりあえず彰からの電話に出た。
「もしもし、」
『もしもしじゃねーよ。今どこにいるの?寮監めちゃくちゃ怒ってるよ。』
「まじか…ごめん。今から帰るよ」
『まぁ、俺が適当に言い訳しといたから。ゆっくり帰っておいで』
彰は相変わらず優しかった。俺はゆっくりベンチから立ち上がり、ゆっくりと寮へと歩き始めた。
俺はまずいことをしてしまったのだろうか。
なにか悪いことをしてしまったのだろうか。
寮へ戻って彰に相談したいところだが、それはなんか違う気がする。
俺は確かに楓が好きだ。でも、佐伯も好きだ。それは楓と同じ『好き』では無い。友達としてじゃダメなのだろうか。
暗い夜道を歩きながら、何も解決しないのにそんなことを頭の中がぐるぐるしていた。
気づくといつの間にか寮へ着いていた。慣れって怖いな。