「あ、あああっ、あのっ!」
去っていくツキの後ろ姿をぼんやり眺めていると、背後からそんな声がした。
低すぎず高すぎない聞いていてなんとなく心地のいい声だ。
さっき初めて聞いた彼の声。
振り返るとやっぱり彼は俯いて真っ赤な顔をしていた。
うーんっ!初々しい!
そんな感想はそっと心の奥深くに閉じ込めた。
気に障るかもしれないしね。
「えっと、なにか?」
第一印象は肝心。
にこりと優しく笑いかけた。
って言っても彼との初めましては、あの階段でのことだから、第一印象なんてもう最悪だろうけど。
「あの、えっと、さっきはごめんなさい!
僕があんなところでもたもたしてたから、ぶつかっちゃうし、遅刻しちゃうし…!」
ああ、彼はなんて律儀なんだろう。
ぶつかったのはわたしの不注意でもあるし、遅刻なんて彼とぶつかる前から決まっていたことだ。
ほんとにどっかの誰かさんとは大違いだ。