そのアパートにはインターホンがない。 と、なるとドアをノックするだけだ。
 こんな聖夜の夜に訪問なんてサンタクロースでもあるまいし。
 何なら窓から入ってみるか?

 そんな事を考えていると、ノックに反応する声が部屋の中から聞こえる。

 男の声だ。 父親だ。

「はい、どなた?」

 ゆっくりとドアが開いて父親の姿が明らかになる。
 グレーのスウェット上下、髪も顎髭もボサボサ。 ロマンチックが台無し、色気も何もない。

「こんばんは」

「……え?」

 どうしてここに、そういう顔をしている。
 僕がここの場所を知っていたとしても、来た事はないはずだと思っているのだ。
 一度も顔を見せた事はないのだから。

 家の方にも年に数回程度のみの帰宅だけで、ほとんど電話での会話ばかりだ。

 だから自分の息子が目の前にいる事実を受け入れられないようだ。
 ドアノブを手にしたまま、固まっている。
 ドアを開けた瞬間は完全に我が家の団らんを邪魔するな、と言わんばかりの応対だったのに。

 もしかしたら父親の呼吸も止まったかもしれない。 いや、止まってしまえばいいのに。