まず、父親の単身赴任のアパート回りを調べた。
 近所では仲良し夫婦と思われているらしく、よく揃って出掛ける事もあるようだ。
 子供のいない夫婦ならありがちな、近所のおばさん連中によるお節介も父親はスルーしている。

 それはそうだろう。
 夫婦ではないし、夫婦にもなれない奴らには無責任な話だから。
 そこはさすがに父親も気をつけているようだ。

 僕はある日、こっそり父親の部屋に忍び込んだ。
 本当なら僕のこれはかなり問題行動だが、そんな温い事は言っていられない。

 部屋の鍵は管理人に借りた。
 父親にサプライズをしたいからこっそり入って準備したい、と言うだけで貸してくれる管理の甘いアパートだ。

 そして僕が来た事もサプライズについても一切口にしないでくれ、と伝えて。
 僕の事は父親思いの優しい息子だと思っただろう。

 部屋の中に入り、やるべき準備を済ませた僕は鍵のスペアを作り、痕跡を消して帰った。

 これだけでいい。
 後は時々、留守の間に様子を見に来るだけだ。

 そして高校を卒業前の年の暮れ、ついに僕は行動に移す事にした。
 クリスマスイルミネーションが光り輝いて、多くの恋人達がロマンチックな夜を過ごす、まさにムード満点な日だ。
 父親がアパートで過ごすのは知っていた。
 男と女には楽しい最高なひとときだっただろう。

 これから地獄が待ち受けているとも知らずに。