南米、ジャングルの中にひっそりと隠されるように建てられているコンクリート製の建物。ここは、マフィアのアジトの一つであり、諜報員が情報を手に入れるために潜入することも少なくない。

もちろん潜入とは命の危険と隣り合わせであり、自分が諜報員だとバレれば一瞬にしてその場は戦場と化す。

銃弾が飛び交う中、諜報員だとバレた諜報員二人が銃弾を避け、戦闘の最中に倒れた分厚いテーブルの陰に隠れる。その間も、マフィアたちが容赦なく銃を発砲し、いつ自分の命が吹き飛んでもおかしくない状況だ。

黒髪に緑の目、年齢より若く見れられるその諜報員は、ハッハッと短く荒い呼吸を繰り返す。このような状況に陥るのは初めてではないのだが、いつまで経っても慣れないのだ。

「おい兄弟、限界ならアイツに交代しろよ」

諜報員の肩が叩かれ、こんな状況だというのに相棒の諜報員から眩しいくらいの笑顔を向けられる。

「必要な情報はゲットできたし、もうあとは脱出するだけだぜ?」
「……そうだね」

もうこれ以上、怖がりで争いを好まない自分でいれば、相棒の足を引っ張ってしまい、捕まってしまう可能性の方が高い。諜報員は目を閉じ、もう一人の自分に声をかけた。

(ねえ、交代してもらってもいい?)

(もちろん!大暴れしてやるぜ!)

目を開いた時、その諜報員は先ほどのような弱気な目はしていなかった。挑発的に笑い、銃に手をかける。

「相棒、思いっきり暴れてやろうぜ!」

先ほどとは別人の諜報員がそう相棒に言えば、相棒も銃を構えて「おお!」と笑う。そして二人は一斉にテーブルの陰から飛び出す。そして、相手がトリガーを引くよりも何秒も早く発砲する。諜報員二人から放たれた銃弾はマフィアたちの体を貫き、辺りに血が飛び散った。

「最ッ高!!」

走りながらマフィアたちを次々に撃ち、諜報員は笑う。

二人を救出するために仲間が出してくれたヘリコプターのプロペラの音が近付いてきた。



シリウスが目を開けると、大人びたモノトーンの家具が置かれた自分の家のベッドの上。

「あの時の夢か……」
ベッドの上に起き上がり、シリウスは額に浮かんだ汗を手で拭う。髪やパジャマが張り付いて気持ち悪いため、シャワーを浴びることにした。

シリウスは、表の世界で生きている人間ではない。潜入やハニートラップなどで情報を手にしたり、ターゲットの救出などを行う特殊工作員として生きている。

最初からシリウスはこの世界で生きているわけではない。元々は会社員と父親と専業主婦の母親の間に生まれたのだが、普通の家庭に生まれたから幸せになれるわけではない。

父親は出張が多いため、シリウスはほとんど母親と一緒に過ごすことが多かったのだが、育児のストレスからか、シリウスは母親から虐待を受けるようになった。食事をもらえず、寒い中ベランダに追い出され、暴言を吐かれ、暴力を振われることも珍しくなかった。

そんな命の危険と隣り合わせの状態の中、シリウスの心の中にある人格が芽生えてしまった。それは、怖がりなシリウスとは真逆の暴力的な性格をしたライである。

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