「閣下は昔、幼かったわたくしに救われたと仰いましたわね? あれだって、偶然です。わたくしは何も考えずに閣下に花冠を差し上げました。おままごとのつもりだったのです。それでも閣下はわたくしに救われたと言って下さいました。偶然だっていいではありませんか。とにかく、閣下はわたくしを助けてくださったのです」

 そこでようやく言葉を止めたサリーシャは、セシリオのヘーゼル色の瞳を見つめると、手に触れたスカートをぐっと握り混んだ。鼻の奥がツーンと痛み、視界が滲んでゆく。

「わたくし、怒っています。とっても怒っているんです。だって、酷いですわ。わたくしは閣下をお慕いしているとお伝えしたのに……。わたくしがちょっとでもよい条件をちらつかされたら、手のひらを返してほいほいと付いていくような、そんな女だと閣下は思っていらっしゃるの? それに、閣下はわたくしとの約束を守って下さらないのですか? わたくしを毎日抱きしめて下さるって、幸せにして下さるって仰ったのに──」

 その続きは話すことが出来なかった。
 息が止まりそうなほどに強く抱きしめられ、続けて荒々しく唇が重ねられる。触れ合う場所の熱さが、二人の想いの熱のように感じた。ようやく唇が離れてヘーゼル色の瞳と視線が絡まると、セシリオは本当に弱ったような、サリーシャが見たことのない顔をした。