私の名前は小桜最愛(こざくらもあ)。私立花園高校に通う高校二年生!

小学校・中学校の頃は引っ込み思案でなかなか話しかけられなかったけど、高校生になってから必死に変わらなきゃと頑張った結果、友達が増えて楽しい高校生活を満喫してる。

「最愛ちゃん、また明日〜!」

「うん!また明日〜!」

授業が終わり、ホームルームが終わったら、私は部活に行くために友達と別れて教室から出る。授業も楽しいけど、やっぱり一番楽しいのは部活だ。自然と鼻歌が出てしまう。

私は軽音部に所属してる。正確に言えば軽音部のマネージャー。部員はめちゃくちゃ少なくて、三年生の男子が一人、二年生の男子が二人、そして一年の男子が一人しかいないんだけど、みんな優しくて楽しい部活だ。

「こんにちは!今日もよろしくお願いします」

そう言いながら部室のドアを開けると、「小桜!?」と慌てたような声がする。見れば、三年生の村崎傑(むらさきすぐる)先輩が、慌てたように机の上に広げたノートを隠していた。
傑先輩は、メガネをかけていてかっこよくて、成績優秀な人。この軽音部ではベースを担当していて、口数が多い方ではないクールな人なんだけど、何故かその顔は今真っ赤だ。

「先輩、どうしたんですか?顔真っ赤ですし、熱でもあるんですか?」

私が近付こうとすると、先輩は「来なくていい!」と言いながらノートを握る。どうしてそんなに慌ててるんだろう?

「それより、今日移動する時に偶然お前見かけたけど、クラスメートの男子と距離近すぎんだろ。おまけにあんなに笑って……」

傑先輩が急に話を変えてきた。何でそんな距離感の話を?

「ただの友達ですよ!それより、他のみんなが来る前に部活の準備しときますね」

私は笑って部室の奥へと入る。ここには、みんなが使う楽器なんかがしまわれているんだ。

私は知らなかった。傑先輩がノートの隅に「村崎最愛」と書いていたことを……。それが原因で傑先輩は顔を真っ赤にさせていたということも……。
次の日、次の授業は移動教室だ。早めに友達と移動しておしゃべりしてたんだけど、忘れ物をしたことに気付いて慌てて取りに教室に戻った。幸い、授業が始まるまでまだ時間はたっぷりある。

「よし、早く戻らなきゃ!」

忘れ物を取り、私が歩こうとすると「最愛ちゃん!」と言いながら抱き付かれる。びっくりして口から変な悲鳴が出てしまった。

「もう、驚かさないでよ!」

「ごめんごめん。お詫びにこれ、キャンディーあげる」

耳につけたピアスを揺らし、髪を金髪にしているかっこいいこの男子は、私と同じ軽音部の部員である黄山日向(きやまひなた)くん。彼とは違うクラスなんだけど、出会うたびに驚かせようと抱き着いてくるんだ。まあ、別に嫌じゃないけどね。

「次、何の授業なの?」

「家庭科だよ。マカロン作るんだ。日向くんやみんなにあげるね」

「えっ、本当!?やった〜!!」

日向くんがはしゃぎ、今度は真正面から抱き着いてくる。日向くん、この学年の中で一番と言っても過言じゃないくらい背が高いから、大型犬に飛びつかれたみたいだ。
「わっ!ちょっと、危ないでしょ!」

飛びつかれて体のバランスを崩しそうになったため、慌てて日向くんから離れて腰に手を当て、怒ってます感を出す。すると、日向くんは「ごめん……」と言いながら謝ってくれた。しょんぼりして、本当に叱られた犬みたいだ。

「……次からは気を付けてね」

しょんぼりした日向くんをそのままにしておけず、頭をそっと撫でてあげる。丁寧に手入れがされた髪はサラサラで、ずっと撫でていたい気持ちになってしまうんだ。

「えへへ、ありがとう」

日向くんはニコリと笑う。その時、授業五分前を告げる予鈴がなり、私は「急がなきゃ!」と廊下に出る。その時、日向くんが後ろで何か呟いたような気がした。

「日向くん、何か言った?」

振り返って訊ねると、日向くんは何故かどこか切なげな笑みを浮かべている。その顔は横に揺れた。

「何もないよ」

「そう?じゃあ、調理実習頑張ってくるね!」

この時、日向くんが呟いていたのは「男に可愛いエプロン姿見せるんだよね。見るの、俺だけでいいのに」という嫉妬だった。
それから数日後、私はいつも通り学校へと向かって歩く。すると、「先ぱ〜い!」という声が後ろから聞こえてくる。振り返れば、ふわふわのブラウンの髪をした可愛い雰囲気の男子が手を振りながら走ってくる。同じ軽音部の一年生、緑川唯(みどりかわゆい)くんだ。

「そんなに走ったら危ないよ」

そう言ったものの、彼は走るのをやめない。そんなに急がなくても、学校に遅刻することはないんだけどな……。

「わっ!」

唯くんが何かにつまずき、そのまま転んでしまう。言わんこっちゃない、と私は彼に呆れながら駆け寄った。

「大丈夫?怪我してない?」

手を差し出すと、「ごめんなさい。先輩に早くおはようって言いたくて……」と唯くんは顔を赤くしながら笑い、私の手を取って立ち上がる。制服は転んだため汚れていて、擦り傷ができていた。

「怪我してるじゃない。こっち来て」

通学路の途中にある公園に唯くんを連れて行き、傷口を綺麗に洗う。そして、その傷口にいつも持ち歩いている絆創膏を貼ってあげた。
「これでよし!」

私が笑うと、「ありがとうございます、小桜先輩」と言いながら唯くんが抱き着いてくる。彼は男子にしては小柄なので、よろけずに済んだ。

「ちゃんとあとで消毒してね。じゃあ、学校行こうか」

遅くなったけど、おはようと挨拶をすると、彼は天使のような笑顔で「おはようございます」と返す。朝はいつもこうだ。毎日のように、唯くんが挨拶してくれる。

「先輩と同い年だったらよかったのになぁ……」

唯くんが寂しそうに私の服を掴んできた。私と少ししか身長が変わらない彼は、私をジッと見つめる。

「だって、先輩と同い年だったら、同じ教室で勉強して、探さなくてもずっと一緒にいられるから」

何だか弟みたいで可愛い。私の手は自然と唯くんの頭に触れる。

「そんなの関係ないでしょ?先輩と後輩っていう関係でも、唯くんとはいつもこうやって話せるんだから」

そう言って笑えば、唯くんも可愛い笑顔を向けてくれる。そして私の腕に自分の腕を絡ませて、「今日部活ない日ですし、放課後クレープでも食べに行きませんか?」と言う。もちろん答えは賛成!

下駄箱で別れた後、彼は微笑みながら胸にそっと手を当てていた。