「お疲れ」

「あっ、道馬さん。
 雪村って人、この会社にいましたっけ?」
と村井が訊いている。

「……雪村?
 雪村蓮太郎か? 研究室の」

 あ~、と村井が声を上げる。

「研究室の。

 なんだ、研究棟の人なら知らないよ。
 あの人たち、あんまり外出てこないから」
と村井は唯由を向いて笑った。

「紗江さんなら知ってるけどね。
 結構ウロウロしてるし、美人だし。

 でも……」

 『でも』の続きが気になったが、村井と道馬は目を合わせて笑っている。

「『でも』、だよな~」
と言って。

 なっ、なんなのですかっ、気になるのですが、と唯由は思ったが、二人は、ははは、と笑い、話を終わらせてしまった。