いや、この人は王子ではない。

 王様だ。

「どうした、唯由。
 愛でも芽生えたのか、じっと見つめて」

 そのセリフを聞きながら、

 今、芽生えたのかと訊くということは、この愛人に愛がないことはご存知でしたか、と唯由は思っていた。

 依頼されたのは、ただの愛人のフリ。

 本物の愛人ではないはずなのに、時折、行動が暴走しているように思えたからだ。

 でも、こんな人が私を好きとかないだろうしな。

 褒めたかと思えば、冷静に分析してくるし。

 何処もあばたもえくぼになってない、と思ったとき、また蓮太郎が言ってくる。

「冴えない顔をしているな。
 いや、冴えない表情でも可愛いが」

 褒めているようにも聞こえるが、その目は相変わらず、アメーバでも眺めるように、こちらを見ている。

 その鋭い観察眼を私に向かって発揮しないでください。

 前髪の下に隠している大人ニキビまで発見されそうなんですけどっ、と唯由は蓮太郎の視線から(のが)れようと後退していった。