「良い子だ。それじゃあ俺は調理をするから、琴はソファーで寛いでいればいい」
「え? 手伝いますよ、私も料理くらいなら……」
琴はそう言いかけたが、加瀬はそれをやんわりと断るように首を振ってみせた。まだ疲れの残る琴に無理をさせたくはなかったのだろう。
仕方なく琴はソファーに座りテレビのリモコンを押してみる。映っている番組は彼女の慣れ親しんだものではないし言葉だって全然分からない。それでも今出来るのはそれだけで黙ってテレビ画面を睨みつけていた。
「日本の番組だって見れる、だからそんな顔をするな」
「きゃあっ!」
突然後ろから聞こえてきた声に驚いて、琴はソファーから飛び降りそうになる。いつの間に近づいたのか、ムスッと画面を睨んでいた顔を見られた事も恥ずかしい。
そんな琴の気持ちはお構いなしに加瀬はリモコンを操作し、番組を日本のものへと変えてゆく。
「ほら、使い方も教えてやるから」
ソファーを挟んで後ろから加瀬は琴を包んだように抱きしめる形で、リモコンの操作方法を教えてくる。その距離に、加瀬の香りに頭がクラクラしてきそうになる。
……こういうの慣れてるんだわ、志翔さんは。
琴の胸にドキドキだけじゃない、何か嫌な感じのモヤモヤした気持ちが生まれてくる。それが何かは分からないまま、琴は黙って加瀬の腕の中に納まっていた。