「ああ、俺はこれでも一人暮らしが長い。今までも来てもらっている家政婦には最低限の事しか頼んでいなかったしな」
「そうなんですか? では一体なぜ私が一緒に来たのにまだ家政婦さんを?」
最低限しか頼まない、それはきっと加瀬の性格がそうさせたのだろう。これからは琴も一緒に暮らすのに、わざわざ他人に家事を任せる必要は無いのではないだろうか?
だが加瀬は琴が考えもしなかった事を口にする。
「俺も普段は忙しいし、あまりあんたの相手をしてやれない。それでも休みの日くらいは二人の時間を作るようにするつもりだから……」
「だから、そのために?」
つまり忙しい加瀬が琴との二人の時間をしっかりと作るため、妻の家事の負担を減らしたい。加瀬はそう考えていたようである。
少し照れたようにそっぽ向く加瀬がどんどん可愛く見えてきてしまい、琴はそんな自分に困ってしまう。
加瀬の優しさが嬉しくないと言えば嘘になる。だがまだ素直にそれを受け止めるのは戸惑いもあるのだが……