「いらっしゃいませ、加瀬様。お疲れでしょう、すぐに部屋に案内しますので」
加瀬の荷物を持った琴とその隣に立つ加瀬を見るなり、琴の義母はいつもより高い声を上げた。
加瀬という男が彼女の父や義母とどんな関係になるのか不明だが、琴は二人がお世話になった人だとは聞いている。
フロントでチェックインをしている加瀬を見ている琴に、義母が近寄って話しかけてきた。
「ずいぶん遅かったわね、琴さん。いったい外で何をしてたのかしら? ああ、そうだわ、これ……忘れていたわよ?」
渡されたのは見つからなかった琴のスマホ、何故それを義母が手にしているのか……? 琴には間違いなく自分のバックに入れた記憶があるのに。
「これ、どこにありましたか?」
「なあに? 私を疑っているのかしら、本当に可愛くない子ね。人の親切にお礼も言えないなんて……」
疑う? 琴は本当に義母を疑っているのだろうか? ただ疑問をぶつけただけでもこうして嫌味で返されて、答えをはぐらかされるばかり。
いつもこうで、二人の会話はきちんと成り立っていない気すらしていた。それなのに……