「見つかったか?」

「いえ、すみません。車内には落ちてないみたいです……」

 後部座席までくまなく探してみたが、(こと)のスマホは見つからない。困っていると加瀬(かせ)がスマホを取り出し操作し始める。
 
「今あんたのスマホを鳴らしている、サイレントモードにしている可能性は?」

「いえ、それはないです。家を出る前にちゃんと確認しましたし……」

 着信が分かるようにサイレントは解除した、そうしてバックの中に入れたはずなのに。ここで見つからない以上あとは旅館に戻って調べるしかない。

「それじゃあ、ここにはないな。気が済んだのならさっさと旅館まで連れて行ってくれ」

「はい、分かりました……」

 一緒に探すのを手伝ってくれたし、男性に絡まれているところを助けてくれもした。悪い人ではないと思うが、琴は何となく加瀬に苦手意識を持ってしまっていた。
 後部座席には乗りたくないと助手席に乗り込んだ加瀬に、戸惑いながらも琴は車のエンジンをかけゆっくりと発進させた。