「大体、何故電話に出ない? 俺が何度あんたに電話をかけたと思ってるんだ、全く」

「その、スマホを車の中に置いてきたみたいで……」

 加瀬(かせ)の高圧的な話し方に(こと)は戸惑いしどろもどろになりながら話すが、加瀬は気にした様子もなくズンズン歩いていく。
 着物姿の琴はそんな加瀬について行くので精いっぱいで、落ち込んでいる暇もない。

 しかし途中で加瀬の足がピタリと止まる。

「……で、どこだ?」

「え、何がですか?」

 いきなり加瀬が振り向きそう聞いてきたので、琴は返事に困る。この男は余計なことは話すのに、必要な言葉は足りていないらしい。
 そう思った琴に呆れたような顔を見せる加瀬。たった数十分でこの顔を琴は何度見せられただろう?

「あんたは本当にボケッとしすぎだろう、迎えの車はどこかと聞いているんだ」

「は、はい! 車ならあっちの方に……!」

 焦った琴が今度は加瀬を連れて車に向かう。意外にも加瀬はそれ以上は文句も言わず黙ってついて来ていた。