「あんたさ、その辺のナンパにNOも言えないようなお嬢様だったりするのか? 見ていて不愉快だから、それくらい覚えて外に出たらどうだ?」
「……はあ」
機嫌が悪いのか、この男性は少し苛立った様子で琴に説教を始めたらしい。しかし自分が悪いと思ったことは黙って彼の言う事を聞こうと思ったのだが……
「すいません! 私まだ人と待ち合わせしてて、後にしてもらえませんか?」
「はあ?」
話の途中で悪いとは思うが、こちらも父から任された大事な仕事だ。琴はぺこりと頭を下げてその男性から離れようとした。
しかし、その肩を掴まれ強引に引き戻される。これではさっきの男性がしていたことと変わらないのでは? そう思った琴に男性は呆れた顔をして言った。
「あんたが音羽旅館の仲居なんだろ? 俺がその待ち合わせ相手だと思うんだが」
「え? 貴方が加瀬さんですか?」
確かに父から聞いていた通りの若い男性だ、しかももの凄く素敵な。琴は驚いて何も言えずにいたが、加瀬はそんなことは気にもせずに自分のスーツケースと琴を引っ張って空港を出た。