「いいでしょ、お姉さん? 俺もうクタクタで早く休みたいんだよね」
そう言って強引に琴の手を掴んで歩き出そうとする男性に少しだけ焦りを感じる、早く無理ですって言えばよかったと琴が後悔していたその時――――
「何してるんだ、その女性は俺の連れなんだが?」
「……え?」
琴の掴んでいる男性の手を、別の人の手が掴んで止めに入る。低くて心地の言いその声に琴が驚いていると、その手を掴んでいた男性は慌ててその手を離した。
「いや、ちょっと旅館の案内をしてもらおうと……俺、用事を思い出したんで失礼します!」
逃げるように去って行った先ほどの男性を、琴がほーと眺めていると横から大きなため息が聞こえてきた。
「あの、助けていただいてありがとうございました! 本当に助かりま、し……?」
お礼を言う途中で、物凄い目で睨まれていると分かり琴はお礼を最後まで言えなくなってしまう。しっかりと顔を上げてみた相手は、すごく綺麗な顔をした大人の色気のある男性だった。