「え、うそ? なんで……」
何年もこんな風に人前で簡単に涙を流すなんてことなかった。自分の事なら何でも我慢出来る、琴はずっとそう思っていたのに。
なぜこんなにボロボロと涙が零れてきてしまうのか、彼女は本当に分からないでいた。
「ごめんなさい、志翔さんの服が濡れちゃう」
慌てて涙を手の甲で拭って加瀬から離れようとする、そんな琴を加瀬は強く抱きしめるように自分の腕の中へと引き寄せた。
男の強い力に抗う事など出来ず、すっぽりと加瀬の腕の中へと納まった琴。どうしてこんな状況になってるんだろうと考えているうちに……
「泣けばいいだろ、なんで遠慮する必要がある? 俺とあんたはもう家族なんだから」
……家族、琴にとってとても大事にしてきた宝物のようなもの。今はその中に加瀬がいる、彼女にとって新しいく出来た大切な存在。
そんな加瀬が震える琴の身体を温めるように抱きしめてくれるのだ。
――あたたかい。ずっと求めていた温もりをくれるのは、父ではなくこの人になったんだ。
そう思えば、少し切なくてでも嬉しくて。止めようとしても大粒の涙はとめどなく零れ落ちていく。彼女の後頭部を優しく撫でる手に甘え、琴は黙って加瀬の肩に涙でグチャグチャの顔をうめた。