どうして今このタイミングで、とか。
人はいないけど、こんな外で、とか。……言いたいことは色々あったけど、その全部が出てこないまま。
「……したくなったから」
「っ、な、」
わたしの心を読んだかのように返ってきた言葉に、顔がかあっと熱を持つのを感じる。
けれど恭がふっと笑う姿までかっこいいと思ってしまうんだから、どうしようもない。
「ずるい」
「何がずるいんだよ」
恭も、もっとわたしにドキドキしてくれたらいいのに。
わたしだけがドキドキしてる気がして、なんだかずるい。
「恭って、さては女の子の扱い慣れてるでしょ?」
「はあ?」
「だってずっとドキドキさせられてるもん」
恭にくいっと手を引かれて、また歩き出す。
冷たいアスファルトに、ブーツの底が擦れる。べつに心地の良い足音でもないのに、この時間でさえ愛しく思えるのは、恭が隣にいてくれるからで。
「……そー思うならそれでいいんじゃね?」
「やだ。恭もドキドキしてよ」
「気が向いたらなー」