「おかえり」
エントランス前に停めていたバイクに、跨るようにして。
わたしの帰りを待っていた恭は、なんだか困ったような表情をうかべる。それからもう一度「おかえり」と言って、わたしの頭を撫でた。
「ただいま」
「ん。……話せたか?」
「うん……」
「……釈然としねー顔してんな」
バイクで来たけれど、なんだかそのまま急いで帰るような気分でもなくて。
手でそれを押す彼の隣を歩きながら「なんか」と開いた口は、いつもより渇いたように感じた。
「嫌だったのは本当だけど……
もう少し何とかできたんじゃないかなって」
「……おー」
恭が、通行の妨げにならない場所で足を止める。
それにつられるように立ち止まって彼を見れば、恭は小さくため息をついて。それから「鞠」とわたしを呼んだ。
「ごめんな。
俺のせいで、お前にまでそんな思いさせて」
「……ううん」
「あいつに対してやましい気持ちなんて1ミリもねーけど。
……気持ちがわからなかったわけじゃねーから」
それは、強引な手段に出た紗七さんのことで。
好かれている自覚があったにせよ、いとこであるにせよ、"わからなかったわけじゃない"なんて言う恭に納得がいかなくて、眉間を寄せた。