こんなに強い物言いをしたのは、お父さんと和解する前以来だ。
言い切れば、彼女の瞳からはらりと涙が落ちた。
「……言いたいことはそれだけです。
急に家まで押し掛けてすみませんでした」
「………」
わたし以上に、恭と長い付き合いがあって。
どれほどの間、彼女が恭を想っていたのかは知らないけれど。恭に対して想っていた気持ちは同じだった。……でも、こんなやり方はあまりにも理性的じゃない。
「恭に、ごめん、って伝えておいて」
「……、わかりました」
頬に伝った涙を、彼女が指で拭う。
それから小さく息を吐いて、言葉を紡いだ。
「ごめんなさい。さすがに昨日のは卑怯だったわ」
はじめてふたりがエレベーターから降りてくるのを見たとき。
なんだかもやっとしたのは、この人がとても綺麗なだからで。主任だと聞いたから、きっとみんなからも頼りにされているんだと思う。
「ありがとう、はっきり言いにきてくれて。
……恭があなたのこと大事に思ってるのも、知ってたんだけど。いずれ結婚するために仕事を始めたって知ってたから、意地悪しちゃった」
もう何もしないわ、と。
彼女はとても綺麗に頭を下げて、もう一度謝ってくれた。
「お幸せに。……指輪、とっても似合ってる」
「ふふっ。ありがとうございます」
それじゃあ、と。なんだか吹っ切れたように手を振ってくれる彼女とその場で別れ、待っている恭の元へ向かう。
きっと。この関係じゃなければ、紗七さんとは仲良くなれた気がするから。……少しだけ、これで終わりだと思うと名残惜しかった。