見つけたエレベーターで目的の階層ボタンを押して、静かに動く箱に身を任せる。

スマホのことだって恭は"もういい"と言ってたけど、返してもらえるなら返してもらった方が早い。恭が悪いわけじゃないのに、手間をかける方が面倒な話だ。



それに、こんな手段に出て尚、これ以上何もしてこないとも考えられない。

……不思議と不安にならないのは、薬指に嵌る新しい指輪のおかげかしら。



エレベーターをおりて部屋の前にたどり着くと、小さく深呼吸して。

それからインターフォンを鳴らせば、返事の前に扉が開いた。



「っ、恭、」



扉から顔を出した彼女の、表情が。



「っ……」



わたしを見た瞬間、あからさまに絶望へと変わる。

扉を閉められたら元も子もないから、強引なのも横着なのも承知で脚で遮った。




「恭のスマホ、返していただけますか?」



「っ、なんで、」



「話なら彼から伺いました。

……聞いた感じから、恭に振られてもキッパリ納得してくれるタイプじゃなさそうなので、わたしが」



わたしも元々蒔を守りたい気持ちで精一杯だったから、わたしが弱音を吐いちゃダメだと、自分自身のプライドを高く保っていたけど。

それと同じものを感じる。……花蔵の血縁者であることも考えると、彼女はプライドが高いんだろう。



「返していただけますか?」



「っ……」



彼女が、くちびるを噛む。

それから数秒押し黙ったかと思うと、一度奥に引き返して。もどってきた彼女の手には、何度も見た彼のスマホがあった。