「……恭」
話し終えると、いちばんに口を開いたのは鞠で。
さっきまでの不安そうな瞳はどこにも無い。それどころか真っ直ぐな視線を向けられて、「ん?」と返事すれば。
「紗七さんの家どこ?」
「は?」
「教えてもらえるかしら。
……直接文句を言わないと気が済まないわ」
迷いのない声に、なぜか「いや、」と渋る俺。
それが気に食わなかったようで、鞠は「教えてもらえるかしら?」ともう一度口にした。
これは完全に……怒ってんな。
「まあでも、恭も帰ってきてお風呂も入りたいだろうし。
ご飯とか一通り終わらせて、準備してから向かいましょうか」
「………」
「まさか帰ってこなかったことを差し置いて、
"それはちょっと"なんて、思ってないわよね?」
にこり。
笑って言ってるのに、その笑みがまるで笑っているように見えないのは俺だけだろうか。
「そうよね?恭」
「……ハイ」
有無を言わさない威圧感に、頷く俺と。
様子を見守っていた暖が思わず顔を見合わせて、"二度と鞠を怒らせないようにしよう"と心の中で誓ったのは、言うまでもない。