「え? ……えっ?」



「こっちは、確かに婚約指輪だけどな。

……橘花から引き継いでるものであって、俺が直接渡したものじゃねーだろ」



婚約発表のあの場でも、俺が薬指に嵌めただけで。

俺が用意したものではないことを、ずっと気にはしていた。……だからこそ、鞠には俺からちゃんとしたものを渡そうと決めていた。



「まあ、見ての通り橘花には及ばねえ金額だし。

今後働く3ヶ月分ぐらいの給料は前借りしてっから、かっこいいことしてやれてねーけど」



「っ、」



「今後も一緒にいてくれるか?」



じんわりと、涙の滲んでいく瞳。

こくこくと頷く鞠が暖の存在も忘れて背中に腕を回してくるから、頭を撫でて「愛してる」と囁いた。




「……なーんかいい感じにしようとしてっけどさあ。

事情は説明してくれんだろうな~?恭」



「……ちゃんと説明する」



一部始終を見ていた暖が、見兼ねて声を掛けてくる。

玄関で話すのもなんだからと、リビングに通して。ソファに腰掛けると、鞠が「寒かったでしょ?」と俺らに気をつかって暖かい紅茶を淹れてくれて。



「……鞠」



やっぱりこの家のキッチン使い慣れてんな、と思いながら。

ダウンを脱いで、もどってきた鞠を隣に座らせる。



「……昨日、病院に呼び出されたあと、」



紅茶を一口飲んでから、口を開く。

言いたいことはあっただろうけど、鞠も暖も、最後まで俺の話を遮らずに聞いてくれた。……そして。