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ほんの少し、自分の身体が動いたような感覚で目が覚める。
揺蕩うような意識の中で現実を思い出して強制的に目を開けると、目の前には紗七の姿があって。
「……、約束は?」
咄嗟にお互いの間に手を挟むことでくちびるが触れ合わないようにすれば、その瞳が哀しげに閉ざされた。
……気持ちがわからないわけじゃねーし、うっかり寝かかった俺が悪いけど、約束は約束だ。
「指輪」
「、」
「返せよ。……時間ももう5時過ぎてるし朝だろ」
すこし強気な言葉で押せば、紗七が俺から離れる。
バッグの中から財布を取り出して、ジップを開けたかと思うと小銭入れの部分から出てくるそれ。
「傷つけてたら許さねーからな」
受け取って、光に翳す。
運良く傷はついていないようでホッとしていたら、今度は紗七が俺のスマホを自分の背後に隠した。……さすがに、しつこい。
「もうめんどくせーわ」
目的のものなら、ちゃんと手元に帰ってきた。
それだけでもう構わない。指輪をケースの中にしっかりと収めて、立ち上がるとダウンジャケットを羽織る。
「好きにしろよ。……もうお前と関わんのは無理」
「恭、」
「どうでもいい」