「片親で、まだ高校生で、橘花の娘で。

あの見た目も、頼めば花蔵で普通に仕事させてもらえることも含めて、"世間知らず"だと思うけど」



「……何もわかってねーな」



「わからないわよ。他人なんだし」



鞠が"襲われた"あの数日後。

精神状態も良くないのに、鞠は母親である愛さんが働いていたスナックの"ママさん"に、電話を掛けていた。



そこで聞かされた、例の犯人が愛さんを異常なほどに気に入って店に通っていたという事実。

おおよそ鞠が知っている通りの真実を、ママさんは今になって話そうと思ったらしい。



愛さんが亡くなった以降店に来なかった"あいつ"が、突然店に顔を出しに来たのが、やけに気になって。

鞠に連絡を入れたけど、生憎繋がらなかった。



……それどころか、実際、鞠は。




「俺よりもずっと、真っ直ぐ生きてるよあいつは」



「………」



「母親なくしても、突然父親だって名乗られても。

本当に大事なもん守ろうとして、俺と別れることを選んだくらいだしな」



せっかく売店で買ったのに、すっかり忘れていて冷め切ったペットボトル。

1本は自分で飲むのにカフェオレを買ったけど、もう1本をココアにしたのは無意識だった。



鞠が甘いもの好きなのを、知ってるから。

紗七にやろうと思っていたのに、知らぬ間に鞠のことを考えて買っていたらしい。……実際、紗七が極端に甘いものを飲んでいるところなんて見たことねーのに。



「だとしたら、尚更。

また一緒にいようと思ってるのかわからない」



「ンなの、好きだから以外に何があんだよ」