我ながら、振られてからも想った期間は長い。
その執念を思えば、ほかの女に触れたい気持ちなんてまるで湧かない。それどころか嫌悪感さえ感じる。
鞠に触れたときは、あんなにも枯渇したように感じるのに。
求められて嬉しいと感じるのは、やっぱり鞠だけで。
「……、わかった。じゃあ抱かなくていい」
無言の攻防の末に、紗七が折れた。
約10時間の拘束に応える形にはなってしまったが、鞠を一番傷つけないように済む方法を考えた末だ。……もしかしたら、泣かせるかもしれねーけど。
「じゃあ朝までな。触れるのも禁止で」
「……ご飯でも作るわ。一緒に食べよう」
何事も無かったかのように、紗七がコートを脱いでソファにかける。
キッチンに足を踏み入れた紗七が冷蔵庫から食材を取り出すのを見て、鞠に会いてーなと思う。
……平謝りするしかねーよな。
帰っても来ない、連絡もつかない。いくら俺のことを信じてくれてたとしても、その信頼をなくしてしまう可能性だってある。
「、」
ピコン、とスマホが鳴ったのがわかった。
充電されて、いつの間にか電源がついたらしい。
思わず視線を向けると、キッチンから出てきた紗七が俺のスマホを手に取って画面を見せてくる。『何時に帰ってくる?』という鞠からのそれ。
……心配、してるよな。そりゃ。
「おばさんに聞いたんだけど。
……あの子、母親がいないのよね」
「……だから何だよ」
俺の前で、わざとらしくスマホの電源を落とす紗七。
指輪を置いて出ていってもいいけど、親にもスズさんにも協力してもらった上で手に入れたものだ。クリスマスに鞠に渡してやりたい気持ちも、さすがに"新しいものにすればいい"とは捨て切れない。