「いまから出す条件を呑んでくれたら、素直に返すわ。

ひとつは、"明日の朝までここにいること"」



鞠の気持ちを押し切ってまで、一緒にいてやるべきだった。それでも紗七より大事だと言ってやればよかった。

愛してると伝えはしたけど、それじゃ何の気休めにもならない。



「もうひとつは。……"わたしのこと抱いて"?」



「……もう無理だな」



力ずくで済ませる気は無かったが、仕方の無い話だ。

紗七が痛みに顔を歪めるくらいの力で腕を掴むと、離したところには赤く痕が残った。ため息をついて、パカッとこの場に似合わず軽い音を立てる箱を開ける。



「……、中身は?」



念の為確認しておいてよかった。

紗七がこんな簡単に返してくるのも、絶対におかしいと疑った気持ちは間違ってなかったらしい。




「さあ……どこかにあるんじゃない?」



「すげー苛立たせるな」



「一晩いてくれたら返すって言ってるじゃない。

……あ、その間彼女に連絡するのはナシね?」



チッ、と粗雑に舌打ちする。

時計で確認した時刻は20時前。朝までは約9時間ほど。連絡も取れなくなったこの状況で、果たして鞠が俺のことを信じて待っていてくれるだろうか。



「分かった。

……返してくれんなら、朝までここにいてやる」



「あらほんと?」



「ただし、抱けって言うなら指輪はもう返さなくていい。

今回は事情を話して、鞠には後日新しいものを渡す。だからもうここに俺の用事はない」