「お、まえ、」



……なんで、それを。

そう思ったけど、確かに俺はさっきあの病室にダウンを置いたまま外に出た。俺が出たときは動けなかった紗七も、戻ったときには帰れる体制だった。



つまり、その短い時間に取られたとしか思えない。



「あんまりふざけんなよ」



「ふざけてないわ、とっても真剣よ」



「紗七」



思わず声が、低く鋭くなる。

ぴくっと肩が揺れたけど、それでも紗七が意思を曲げることはなかった。……埒が明かねーな。




「いますぐ返せ。そしたら今回は見逃してやる。

"ただのいとこ"として、今後も接してやる」



「随分と上から目線ね。大事なもの取られたのに」



「俺の中じゃお前はもう"いとこ"以下なんだよ」



藍華の特攻隊長の中で、一番を務めている割には、俺は事を荒立てるような性格ではない。

でも、いま俺の中で大事なものは、何よりも鞠で。それを邪魔されるなら、簡単に手放してしまえる。



「俺を呼び出したのも、わざとだろ?」



「ええそうよ。仕事中に倒れたのは本当だけど。

わたしがおじいちゃんに、"恭を呼んで"って言ったの」



じいさんに呼び出されたら、俺が断れないのを分かっていて、紗七が仕組んだこと。

……それならはじめから、来るんじゃなかった。