親切に仕事を教えてくれたことには感謝してる。

おかげで、鞠には内緒で交わしていた"努力次第ではクリスマスに間に合うように給料の先払いをする"という約束を、親が無事に呑んでくれた。



俺が買いに行って怪しまれることも一応懸念して、"スズさん"こと黒田さんに、あらかじめ決めてあった指輪も買いに行ってもらった。

「なんで俺が」と、散々文句は零してたけど。



あの人は一応、橘花の社長秘書だ。

いま既に鞠がつけている、橘花で受け継がれてきた婚約指輪を手配したスズさんなら、彼女の指輪の号数ももちろん知ってる。



先日の、仕事の帰りに。

スズさんが購入してきてくれた指輪は、柳さんを通してこっそり俺の手元に渡ってきた。



それを今日、鞠に渡すつもりで。

密かに準備を進めていたのに、これじゃ渡す以前の問題だ。……つーか指輪、はやく見つけねーと。



「……あの子じゃいけないの?どうして?

わたしの方が昔から恭のこと知ってて、もう大人として自立もしてるのに。あの子が"橘花のお嬢様"だから?」



まるで鞠が恵まれてきたような紗七の口ぶりに、眉間が寄る。

何の苦労も知らないから、そういうことを言える。……でもそれは、俺にも言えることで。




「出会った時から、あいつにしか興味が無い。

……だから橘花だろうと何も関係ない」



「っ……」



「もう分かっただろ。

何を言われても俺はお前のことを好きにはならない」



だから電話を、と。

紗七に促せば、彼女が数秒渋ってから、着ていたコートのポケットに手を入れる。そこから出てくるであろうスマホを、受け取ろうと手を出せば。



「いいの?そんなこと言って」



「は……?」



ポケットから出てきたのは、スマホじゃなかった。

俺がいま探しているはずの、"ジュエリーボックス"。