「紗七、ちょっと電話、」



貸してくれね?と、声に出そうとした時。

ポケットを探るのに忙しかった俺は、すっかり注意散漫で。知らぬ間に背後にいた紗七の腕が自分の身に巻きついたことで、一瞬動きが止まる。



「……帰らないでよ」



「紗七、」



「イブくらい、

一緒にいてくれたっていいじゃない……」



「紗七、離してくれねーと、いくらお前でもキレる」



分かっていて家に入ったのは、完全に俺が悪い。

だから紗七にお前が悪いなんて責めるつもりもない。……でも、何を言われても俺は紗七に対して恋愛感情を抱くことなんてない。




「だって、昔はそんなこと無かったのに……

いまは仕事のあとも"彼女が"って、ご飯も付き合ってくれないじゃない」



「それは基本あいつと同じ日に仕事が入ってるから、一緒に送迎してもらってるし。

唯一違う予定の金曜も、飯作って待っててくれてんだから仕方ねーだろ」



当日に誘われても無理な話だ。

離れないように力を入れられたけど、腕を掴んで強制的に離す。さすがに力じゃ適わない紗七は、泣きそうな顔をしながらも俺のことを真っ直ぐに見つめた。



「……そもそも、ただ誘われただけなら俺も予定空けるなり何なりする。鞠呼んで3人で飯行っても良い。

でもお前の場合は違うだろ、紗七」



「………」



「"職場の関係"とか"いとこの関係"を越えようとしてるヤツに誘われても、断る以外の選択肢ねーんだよ。

今日倒れたのが"わざと"だとは思ってねーけど、俺は鞠が行けって言わなかったら病院にも行かなかった」



抱きつかれた時点で、もう自意識過剰じゃないことは分かってる。

これ以上を求められても困るから、ここでハッキリと答えを出したかった。