しばらく黙り込んで、それから無意識に、ダウンのポケットに手を入れて。

"それ"に触れるはずの指先が何にも当たらなかったことに、ハッとした。思わず反対のポケットを探るけど、あるはずの物が入っていない。



「恭?」



タクシーが到着して、じいさんから渡されたらしいタクシー代で紗七が会計している間に。

制服のポケットも全部探るけど、やっぱり入ってない。……どっかで、落とした?



「紗七、わりーけど俺このまま病院に、」



「なに焦ってるのよ。探し物?

とりあえず家上がって、落ち着いて探したら?」



「いや、」



そんな余裕は、と。

頭では考えたけど、会計を済ませたタクシーに長居しても迷惑なだけだ。運転手さんはどうにも柔和そうな雰囲気だったが、軽く会釈して大人しく降りた。




どっちみち、スマホの充電もない。

言われた通り、俺が焦ってるだけかもしれねーし。



「どうぞ。暖房ついてなくて寒いけど」



紗七に促され、花蔵ビルからそう遠くないマンションに足を踏み入れる。

できるだけはやく部屋を出ようと自分の中で決心して、ひとまず借りた充電器にスマホを繋いだ。



「で、なに探してるの?」



「……指輪」



ダウンジャンパーを一度脱いで、全てのポケットを確認する。

……が、ダウンジャンパーにしか入れてねーし、ほかのポケットに入ってるわけもない。



病院に着いた時に両手をポケットに入れたら手がジュエリーケースに当たったし、反対のポケットにバイクのキーを入れたこともしっかり覚えてる。

となると、やっぱり、病院に忘れてきた可能性が高い。