何度も何度も、"そんなはずはない"と自分に言い聞かせた。

何時に帰ってくるのかわからないと言われたから、それでも信じて待っていようと思った。何かあったら連絡しろと言われたから、それが繋がらないなんて状況には、よっぽどの理由があるんだと。



それでも、朝になっても帰ってこない現実が、さすがに堪えた。

泣きたくなんてなかったのに、不安でたまらない。



『今からそっち行く。待てる?』



「ぇ、や、ごめんそれはいい、」



『俺が、いまひとりにさせたくねえの』



わかった?と言い聞かせるように言われて、涙を呑み込んで「うん」と返す。

あすみくんとリカちゃんには連絡できない。今日、果歩との予定があるなずなくんも。



チカくんにも連絡はできたけれど、それでも"何かあったら"と言ってくれた暖くんの言葉は強かった。

半分ダメ元で連絡したのに、出てくれた安心感に負けた。




『すぐ行くから、待ってて』



そう言って電話を終わらせた暖くん。

その間も恭からの連絡を待ってはみたけれど、返事が来ることも電話が掛かってくることもない。



……はじめて仕事に行った日。

ふたりがエレベーターからおりてきた時に、そこはかとなく感じた親近感が、嫌だった。



それが嫉妬だってことは気づいていたけど、仕事だからと割り切って気付かないふりをした。

恭が大事にしてくれていたから、大丈夫だって思ってた。……それ、なのに。それなのに。



「っ、」



ピンポーンと部屋に響いた音に、弾かれたように玄関へ向かう。

相手も確認せず、ガチャッと扉を開ければ。



「ごめん、お待たせ」