こくん、と小さく頷く。
暖くんにこれ以上応えられることはないけれど、それでも、その優しさと気持ちは嬉しかった。ごめんの代わりにありがとうを伝えると、暖くんはキョトンとして。
「……俺のセリフだよそれは」
わたしの頭を一度だけ撫でて、暖くんは手を離す。
それ以降はまるで気を遣わせないみたいに、いつも通りに話をしてくれていて。恭の家にたどり着くと、彼は「それじゃあ」と微笑む。
「俺は帰るけど、気をつけてな?
……もし何かあったら、連絡して。絶対来るから」
「うん、ありがとう。暖くんも帰り気をつけてね?」
「ん。……いいクリスマス過ごせよ?」
先に入りな、と促されて、もう一度お礼を言ってから、合鍵で中に入る。
恭の部屋に荷物を置くついでに着替えを終わらせると、キッチンに向かった。
「……どうしようかな」
手を洗って冷蔵庫を開け、中身を確認してから一度閉じる。
イブだからすこし豪華な夕飯にするつもりだったけれど、恭が何時に帰ってくるかわからないし。温め直しても差し支えないものの方がいいわよね。
「んー……」
しばらく悩んでから、簡単にメニューを決めた。
すっかり使い慣れたキッチンで夕飯を作り、すこし経ってから先にお風呂に入ってスマホを確認するけれど、恭からの連絡はない。
その代わり。
送ってくれてありがとうとメッセージに一言入れた暖くんからは、「どういたしまして」と返事が来ていた。
それに既読をつけて、恭に『何時に帰ってくる?』と連絡を入れてみたけれど。
その後、彼から返事が来ることはなく。
それどころか。
朝になっても、恭は、帰ってこなかった。