「……ごめん」
電話を終わらせると、恭がわたしのことをぎゅっと抱き締めてくれる。
心配だから一刻も早く行ってあげたいはずなのに、それでも、わたしのことを心配してくれる。……その優しさの意味を、履き違えるようなことはしてない。
「はやく帰りてえけど、じいさんに引き止められたりしたら、帰るの何時になるかもわかんねーし。
……無理なら、今日は実家に帰ってもいい」
「ううん、恭が帰ってくるの待ってる」
「……ごめん、な。絶対埋め合わせするから」
「ふふ、そんなの後で構わないわよ」
抱きしめる腕に一瞬だけ、恭が力を込める。
それから額に、くちづけをくれた。
「……行ってくる。
もし何かあったら、遠慮せずに連絡しろよ」
「ありがとう。気をつけてね」
寒いけどイブにイルミネーションを見に行こうと約束していたから、数日前に彼がたまり場に停めておいてくれたバイク。
行きたかったなと、思わないわけじゃないけど。
「……愛してる」
わたしにとびきりの愛を伝えて、彼は階段を駆け下りていく。
幹部のみんなには、わたしから伝えておいて欲しい、ということだろう。
その時間さえ惜しいくらいなのに。
わたしを優先しようとしてくれた恭の優しさが、染みる。……だからきっと、大丈夫。
「あれ、恭は?」