「、悪い。ちょっと出てくる」



幹部室に急に着信音が響いて、そのスマホの持ち主である恭が部屋を出ていく。

その様子をただ眺めていただけなのに、わたしを見ていたらしいあすみくんに「心配そうだな」と声を掛けられた。



「……心配よ。最近仕事の電話多いみたいで」



「慣れるまではしんどいだろうな」



「うん。でも頑張ってるみたいよ」



フロアが違うから、彼と仕事中に会うことはないけれど。

ほかの部署の人から、社長の息子が頑張ってるという話を聞く。そして、想像していたよりもかっこいいということも。



……まあ、わたしの婚約者であることも、同時に知られてるんだけど。

庶務一課の、子どもたちがいるママ社員さんたちからは、恭とどうなのか尋ねられて、気はずかしい気持ち半分、嬉しい気持ち半分。




「鞠。……ちょっといいか?」



「どうしたの?」



幹部室の扉がガチャッと開いて、スマホを耳に当てたままの恭がわたしを呼ぶ。

不思議に思いながらも彼に続いて部屋を出ると、扉を閉ざした恭は、小さく息を吸い込んで。



「……紗七が、倒れたって」



「、」



「最近俺の仕事見るので残業続きだったってのに、普通に毎日仕事してて……

あいつ主任だから色々背負ってやってたみたいで、」



恭の仕事を教えている人が、恭のいとこだという話は知ってる。

別に何も無いってことも、わかってるけど。こんな時に不謹慎なことは承知で、ふたりの距離感にもやもやしてしまう。