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眼下に広がるのは、真っ青な海。
今日は天気がいいおかげで海面はキラキラと輝いていて、さっき蒔が「きれー」とつぶやいていたのを思い出した。
海のそばと言ったら、風が結構強いイメージだけど。
高さで言えば結構離れているからか、案外穏やかな風が吹く。
「……鞠。話せたかい?」
「うん、話せたわ。
色々伝えたいことがあって、結構長くなっちゃった」
蒔と、お父さんと、3人で。
本来は年が明けて3月に来たかったのだけれど、お父さんの仕事がまた忙しくなったり、わたしの学校の都合もあるからと、12月の今ここへ来た。
お母さんの、お墓参り。
……行かなくちゃとはずっと思っていたのに、わたしと蒔のふたりじゃ、すこし遠いから行けなくて。
橘花の人間に連れて行って、と頼みたくなかったから。
お父さんと打ち解けた最近になってようやく、お墓参りに行きたいことを伝えられた。
お父さんと無事に仲良く家族になれていること。蒔がかなり成長したこと。あのとき別れてしまったけど、また恭と一緒にいること。婚約したこと。
今まで貸してもらっていたスマホも、もう必要がないこと。
言わなきゃいけないことは山積みで、それを汲んでくれたお父さんが、3人で手を合わせたあと、蒔の面倒を見て待っててくれた。
ふたりのそばに歩み寄ると、「帰ろうか」とお父さんは微笑む。
「せっかくだからどこかでお昼食べて帰ろう。
蒔、なにが食べたい?」
「んーっ、ハンバーグ!」
「ふふっ、じゃあレストランね」
長い階段をおりつつ、そっと左手の薬指を撫でる。
橘花の歴史を引き継いできた、婚約指輪。
お母さんに見せたかったから、嵌めてきた。
……この婚約指輪を嵌めるのは、わたしで最後だ。