なにか文句でも?と言いたげな恭のお母様。
それに対して「そういや年内に帰るとか言ってたな」とつぶやいた恭は、ため息をついてベッドから立ち上がった。
「つーか絶対にノックしろよ。
仕事でやってんのに家で出来ないわけねーだろ」
「え、わざとに決まってるじゃない。
玄関に鞠ちゃんの靴あったから、ふたりがラブラブしてるかなー?と思って」
「クソ迷惑じゃねーか」
「だって"普通"に考えて、"普通"に帰ってきたら絶対階段のぼる足音で帰ってきたの気づくでしょ?
わざと静かに上がってきて部屋開けてみたのよ」
「うぜー……」
え、さっき"まさか一緒にいると思ってなくて"って言っておられませんでした?
玄関に靴があるのを見られてたってことは、本当にわざとだったの?え?何か試されてる?
「ごめんね、鞠ちゃん。
リンはいつもこんな感じだから、悪気はないんだよ」
「や、全然、そんなことは思ってないんですけど、」
「それならよかった。
こういう性格だから、誤解されやすくてね」
楽しいことが好きなだけなんだけど、と。
恭のお父様が、すこし困ったように笑う。父親なのだから当たり前だと言われればそうなのだけれど、その姿がとても恭に似ていて、なんだかドキッとした。
「いつまでいんの」
「明日の昼までかしらね。
鞠ちゃん、4人で予約してあるから明日一緒にランチに行きましょう」
「すげー勝手に決めてんな。
何なら、帰ってくる前から鞠がいること知ってんじゃねーか」