異性を恋愛対象に見えない事から始まった嘘はクラスでそのせいで
浮いていると次の嘘を重ね、優しさを利用して傍に居る権利を
獲得し、カズ君が離れそうになると柚菜を出汁に引き寄せた。
学校を休んでいる時にはお見舞いに来ないかと誘い一緒に
帰り、柚菜に見せつけるつもりだったのに、柚菜と友達との
恋バナに焦り、応援しているかのように家庭教師をしてみたらと
勧めたりした。

カズ君には私は味方だと思われたくて・・・

実際は、カズ君と同じくらいにしか柚菜に接していないから
情報なんて何も持っていないのに、自分に害が及ばない範囲で
柚菜の情報を差し出していた。
でも、そんな私にやっぱり神様は罰を下す。

ただのお見舞いだった筈。
2人で居る所を見せて、傷つけるつもりだったのに一番傷ついたのは
カズ君だった。
顔面蒼白になって頬に涙が伝わったのを目の当たりにしてしまった。
その横顔すら美しく愛おしかった、そしてその横顔を柚菜は知らない
と優越感に浸りたかったのに、その涙が柚菜にどれだけ恋しているのか
証明の涙が私を打ちのめす。

何年も傍に居たのに、何年もまともに顔を合わせていない柚菜に
完全敗北。

柚菜は私の想像以上に私達と距離を取っていた事に漸く気がつく
けれど、もう遅かった。

妹だと思っていたのに何時の間にか私を追い越す身長に
スレンダーでいて女性らしいライン、友達と話しているトーンは
大人びた声色で、ゾクリと同性ながら耳を傾けたくなる。

私は妹の何を見て、何を見ないで過ごして来たのだろう。


久々に食卓を囲んだ時の妹の目力に言葉を失ってしまったのは
カズ君と私。

あんなにオドオドしていてカズ君に纏わりついていた妹はもう居なかった。

雰囲気も、スムーズな会話も、仕草も私達の知らない柚菜がそこに居た。
どうして今日まで柚菜の変貌に知らぬふりが出来たのだろう。

その、全てがカズ君を益々虜にし、子供の時に向けていた瞳ではなく、
今まで以上に熱を帯びた眼を向けたのを誰よりもカズ君を見た私には
解ってしまった。

中学2年のあの時より確実にカズ君は柚菜に恋焦がれている。
そして、柚菜の瞳がカズ君を追ってない事が余計カズ君の恋心を煽っている

怖くて怖くてその日の食事の味は全くしなかった。



そんな恋に疲れたのだろうか?それとも柚菜に対するライバル心だろうか
自分も誰かのモノになったらカズ君は私を見てくれるのでは無いかと
何処かで期待していたのかもしれない。

程なくしてパートナーを見つけた。

その話をカズ君にした時に期待したその目に恋情の炎が揺らぐことを。
結果、惨敗。
彼の瞳には安堵が広がってしまった。

パートナー(彼女)は4歳年上の社会人。
私を存分に甘やかしてくれ、沢山の愛情表現でトロトロに身も心も
蕩け、溺れ。カズ君を忘れられたと思ったけれど、フトした時に気がつく
カズ君に対するような切なさや苦しさ、もどかしさ そんな感情とは
無縁の恋。
それを幸せと思う人も居るのかもしれないが私は
物足りなかった。
身を焦がすような恋をしたい・・・・そう思う時に頭を過ぎるのは
間違いだろうか?
愚かな考えだろうか?

それでも、柚菜に向けられた瞳を自分も味わいたいと
願ってしまっていた。

10代の小娘がパートナー意外に抱く恋情を上手く隠す事なんて出来て
いなかったのだろう
あっという間に破局を迎えてしまう。
それをカズ君に話す事が出来なかったのは、傍に居る権利を
失いたくないのと、2人が大人への階段を駆け足で登り始めて
置いてきぼりを食らったとあの夏以降から肌で感じていたから
最後の私のプライドだったのかもしれない。