夕食が配膳されたタイミングでカズ君が顔をだした。

「お義父さん、スミマセンでした。」
「一那君、柚菜は私の大事な娘なんだから、付き添うのは当然だから
気にしなくて良いから。それより仕事は大丈夫なのか?」
「はい。大丈夫です」
「カズ兄、さっきの電話・・・」
「うん、会社からだったよ。一寸俺しか解らない案件の打ち合わせが急遽
入ってね。でも終わったから・・」
「カズ兄・・「一那だ」」
「俺達は夫婦であって兄妹じゃないからカズ兄は止めてくれ」
「でも、」
「柚菜は俺の事を一那と呼んでいた・・お義父さんそうですよね?」
「まぁ そう呼んでいたな・・・」
「これで解っただろ? だから 一那ってちゃんと呼んで・・
呼ぶことによって思い出すかもしれないから」
確かにそうかも知れないけれど、本当に良いんだろうか?
「一那さん、「違う!さんなんて他人行儀な呼び方をしてないから」」
どうしてカズ君はこんなに呼び方に拘るんだろう?
父親の前で、呼び捨てなんて・・ハードルが高すぎる・・
「フ~~ 一那・・・」
身体中に張り巡らしている血管が沸騰してしまったかのように
熱くなって、顔も首も全てが絶対に赤くなっている!!

そんな私なんてお構いなしににニコニコしているの?

「カズ  一那 この病院は完全介護だって聞いたの、だから
此処に泊まる必要は無いから、ちゃんと帰ってベッドで寝て、
仕事に行って下さい。」
「柚菜、俺達の間に敬語は存在しない、それにさっきも言ったけれど
柚菜の居ない家では眠れないし、仕事は大丈夫だ。」
「つぅ、、、カズ 一那、私は記憶を失くしているけれど大学に入学した時から
おば様の旧姓を名乗って加瀬グループで働いていたのは覚えているよ。
人の何倍も努力して我慢して仕事していたのも知っている。
だから仕事に行って。お願い。折角の努力を水の泡にしてしまわないで。」
「一那君、私もそう思うよ。柚菜を心配して付いていてくれたのは
感謝している。でも、柚菜も大分良くなってきているから
これからの事を考えると、柚菜が入院している今こそ仕事に復帰して
生活の基盤を盤石にした方が得策じゃないか?」
「解りました。明日から通常通り勤務します。でも、柚菜 此処に俺は帰って来て
此処で寝る。それと、おば様じゃないよ。柚菜はママって呼んでいたから
そうやって呼んであげてくれたら喜ぶから・・」
そっか・・私 ママって呼んでいたのか・・
「おじ様の事は?」
「パパって・・・」そう口にした一那は少し頬が赤くなっていた。
「一那が照れてる・・・」
「当たり前だろ。パパなんて恥ずかしいに決まってるだろう。」
父も少し笑って一那のテレを楽しんでいる様に見えたのは内緒にしておこう。

”一那” 何回も口にするとなんとなく違和感が消える感覚になるのは
本当に私はそう呼んでいたのかもしれない  って 何処か安堵してしまう。