次に目覚めた時はベッドで西日が部屋に差し込んでいた。
「柚菜。目が覚めたのかい?」
「お父さん・・・・」
「今は私しか居ない・・・」
多分、眼でカズ君を探したのが解ったのだろう。
「お父さん、仕事は?」
「柚菜、お父さんを誰だと思っているんだい?
桜法律事務所のトップだぞ。娘の一大事に休めないような人材育成は
しておらん!」
「フフフッ お父さん、格好いいけどそう言うのってお母さんに
言ってあげた方が良いと思うよ。娘には響かないよ・・・」
「お前ってヤツは小さい時から小生意気で・・・気がつけば俺の背中を追って、
あっという間に他人の男のモノになってしまって…挙句の果てに事故で記憶を
失くすとか・・・どれだけ生き急いでいるんだ!」
父は私の頭に大きな手をのせたが、その手が震えている・・
「ゴメンね。心配させて・・・」
「親が子供の心配をするのは当たり前だ!だけどな、親より先に逝くような
事だけは止めてくれ!それ以外ならどれだけ心配かけても良いから」
「・・うん ・・」

両親はこんなにも私を心配してくれていた・・・それなのに
どうして一瞬でも死にたいって思ったんだろう・・・
私はさっきの感情の答えを見つけられないでいた。

「ねぇお父さん、私がお父さんの後を追いかけて誰かを(お姉ちゃんを)
傷つけたりした?」

「そんな事は無いだろう。実力で手に入れたのに誰を傷つけるんだ?」
「そ そうだよね・・・ところで私は今、仕事しているの?」
「柏木の所でお世話になっている。」
「柏木のおじ様の所で・・・」全く記憶が無い。
「そっかきっと凄く迷惑かけてしまっているよね・・・」
「柏木にはキチンと話してあるし 皆、心配していたぞ。
今はユックリ休む様にと言ってくれているから、
柚菜は治す事に専念しなさい。」
治すって何を治すんだろう・・・
記憶喪失って治せるのかしら?

私、働いていたんだ・・柏木のおじ様は覚えている。
でも、そこで働いていた記憶は全くないから
同僚の名前も、仕事内容も思い出せない。
復帰なんて出来ないな・・・・
働いて忙しくしていたら嫌な事を考えないで済む。
そんな考えが頭をよぎり、今浮かんだ”嫌な事”ってなんなんだろう?
「お父さん、仕事の内容を全く覚えていないから復帰なんて無理だよね」
父は頭に載せた手をクシュクシュし、昔 怖い夢を見た時に
「大丈夫だよ」と笑顔で言ってくれたそのまんまの顔で
同じ様に口にしてくれた。
その言葉が懐かしくて安心を運んでくれる。
「もし、このまま記憶が戻らなかったらお父さんの下で
働けばいいから・・・だから大丈夫だ。」
「お父さん、お父さん…ありがとう」

仕事を失くすことを何故こんなに不安に思うんだろう・・・
仕事を失くすことへの尋常じゃない不安感。
失っている記憶に何が隠されているのだろう。
不安で闇に呑み込まれてしまいそう