【完】好きだからそばにいるんだよ

「もう...!白矢くん本当に今日は意地悪なんだから!.....意地悪ばかりされると白矢くんに触れずらいよ」






「触れたいの?俺に」







「・・・!ち、違う!今のはその....。トリック・オア・トリート。お菓子くれないとイタズラするよ?」





触れたいのは本音だが、日和はそれを言うのは恥ずかしく、思わずトリック・オア・トリートと言ってしまった。







むぅっと膨れながら上目遣いで白矢にトリック・オア・トリートと言うと、白矢は参ったなという顔になった。







「ふふっ。今はあいにくお菓子は持ってないな。だからそのお詫びとしてイタズラするね?」






今度は遠慮しないで白矢は日和の口にキスをした。






「可愛い」






「むぅ〜」






またそうやって、不意打ちで...。私が仕返しする隙が全然ない。







日和が膨れた顔を覗き込んで満足そうな笑みを浮かべる白矢。






こんな間抜けな顔、見せたくないよ。白矢くんはなぜか嬉しそうだし。






キキーッ!






電車が到着した。白矢はリュックを持って、電車に乗り込んだ。





もう来ちゃったんだ。時間が短く感じた。これで終わるなんて虚しいな。





冬休みまでまだまだ日数はあるし。それまで私は我慢できるかな?





でも今は白矢くんを送り出そう。私が引越し時みたいに。ここで悲しんだら白矢くんを困らせることになるから。








「白矢くん。冬休み、絶対会おうね!」







「あぁ、必ず会いに来る。離れていても俺はいつも日和の傍にいるから」







そう言って、白矢は日和のカバンに付いているぴよ吉さんを指さした。








「うん...!」







ピピーッ!







アラームが鳴り、ドアが閉まり出した。







「白矢くん。またね!」







「またな、日和」







大きく手を振った日和。白矢もそれに応えるように手を振った。






ドアは完全に閉まり、電車は目的地を目指して走り出した。







白矢くん。私、今日会えて良かった。実は言うと、最近ちょっと不安になっていたんだ。






転校して初めての文化祭で上手く出来るかな?って緊張していて。





そこに白矢くん来てくれて安心したから文化祭、楽しむことが出来たよ。ありがとう。





ぴよ吉さんはやっぱり凄い。私と私の周りの皆を繋いで、笑顔にしてくれる。






私はこれからもずっと、皆といたい。







楽しいことも辛いことも皆と乗り越えて、そして笑顔でいたい。






私の名前は皆に笑顔を届けられるように願われた名前。






だからこの名前に恥じないように、これからも笑顔を絶やさないでいるよ。
白矢が日和との再会を楽しんでいる中、苦痛の声をあげている3人の女の子たちがいた。






「美華〜」





机に寝そべりながら紬に声をかけると美華と。






「紬何〜?」






口と鼻の間にペンを挟んで現実逃避している紬。






「ここ分かんない」






「あたしも分かんないよ。凛は?」






凛は飽きて椅子から立ち、窓側に移動した。






「さっぱり。こんな時、日和がいてくれたらな...」





美華たちは秋晴れの空を見上げながら転校した日和のことを思い出していた。






ガラッ!






「川口、春夏冬、原田!お前らまだやっているのか!?」






「先生これ難しいよ」







3人に補習するように命じた先生が様子を見に来た。






プリントをペラペラとしながら凛は先生に抗議した。





「あのな、これは中間テストと同じ問題なんだぞ?教科書見れば大体の分かる」






そんなことを言われても分からないものはわからないと思う3人。







「それで分かったら苦労しないよ。見てくださいよあの紬の顔。目が死んでますよ?」






「春夏冬。お前な...」






「数字や英語がいっぱいで分かりません」






「ったく。今日中には終わらせろよ?終わったら職員室の先生の机に置いておけ。じゃーな」






「教えてくれないんですか?!」





「川口甘えるな。優しい中原じゃないんだ。諦めろ」






そう言って先生は教室を出ていった。





「ありえない。あれでも教師?」






「紬、次は顔が怖くなっているよ。あーあ。日和がいれば優しい言葉をかけてくれるんだけどな」






「凛は相変わらず日和大好きだね。まぁ、確かに日和がいればこんなの昼には終わるのにね」







美華たちは同時にため息をついた。






日和がいない寂しさが思い出す度に心から落ち込む。それだけ4人は仲が良かったのだ。
今回の主人公は、4人のまとめ役の川口 美華(かわぐち みか)。情報通の春夏冬 紬(あきなし つむぎ)。皆の母的存在の原田 凛(はらだ りん)。





白矢が日和の文化祭に行っている間、3人は補習に明け暮れていた。






理由は中間テストで赤点を取ってしまったからだ。






時は遡ること、3週間前。







当初は、白矢含め、美華たち4人は一緒に日和の学校の文化祭に行くことになっていた。






「ねぇねぇ皆!日和の学校がもうすぐ文化祭なんだって。皆で行こうよ!」







その情報を持ってきたのは、日和大好き凛。







「情報通の紬より早いね。さすが凛」







美華がそう話すと凛は腰を手を当ててドヤっとした。







「その日って確か、開校記念日だったよね?ちょうどいいじゃん!」








「ほんとだ!そこまで気づかなかったよ。さすが紬!」





イェイとハイタッチをする凛と紬。ただそれは誰も知っていることだったので白矢はそれほど驚かなかった。







「普通そこは覚えているだろ」







凛のおっちょこちょいにため息をついて呆れる白矢。







「けどさ、その前に中間テストだよ」






美華がテストのことを言うと、紬と凛はハッとする。






「美華、それは禁句だよ。ちゅ、中間テストなんてこの世にあっていいものじゃ....」








凛は床に崩れてテストという言葉に罪悪を抱いた。





「え?」






美華がその状況を把握出来てない。






そして続けて紬も胸を抑えてテストへの苦痛な気持ちを述べた。


「そうだよ。それは1番考えてはならない学校行事...。私たちには無縁のものだよ」





「単に勉強が嫌なだけだろお前ら」





白矢にとどめを刺された凛と紬。美華は何となく2人の気持ちが理解出来る。




美華も2人と同じく勉強が苦手。しかも今回は頭のいい日和がいないため、頼れる人がいない。




3人とってはそれがかなり絶望的だった。




「白矢くんには分からないの?私たちの気持ち」




紬は目に涙を浮かべて白矢に言ったが、白矢は動じず、ただため息をつくだけだった。





「これが学年上位の余裕か。美華、凛。3人で力を合わせて頑張ろう...!」






紬が手を出すと、美華と凛はその手の上に手を重ねて、頷いた。







そして中間テストの日。美華たちはいつも以上に気合が入っていた。日和に会いたい。その気持ちを胸に、テストに挑んだ。
「あれだけ頑張ったのにさー。3人揃って、あと少しのところで1教科ずつ赤点って....」





「美華は化学、凛は英語。私は数学...」






「「「はぁ....」」」






「「「くしゅん!」」」





ため息をつき終わったら次はくしゃみが出た3人。それは日和たちが噂をしたものだった。





「ねぇ、あの時のアイツの顔見た?」






「アイツ?あぁ、白矢くんね。めっちゃ嬉しそうだったよね」






「あたしも見たよ。1人で日和に会えて嬉しいって顔に出てたもん。てか、紬が白矢くんもアイツと呼ぶなんて、めっちゃ怒ってるな....」







「そりゃそうだよ。1人だけ日和に会えるなんて羨ましい。でも美華。見てみな、凛の方がやばいから」







紬に言われて凛の方を見た美華。そこには負のオーラが全身を包んでいる凛の姿があった。





「暗い...」






その姿に引く美華。凛はそれに気づかず、ブツブツと言いながら、ノートに何かを書いていた。






「私を差し置いて1人だけ日和に逢いに行くなんてずるい。ずるすぎるよ。1人で行ったからには、キスくらいはしたんでしょうね?日和泣かしたらまじ、許さない...!」

「凛が怖いよ紬....」




「テストの点数見た時より恐怖だよね」




お互いの手を握って凛の姿に震える美華と紬。気づけば夕方になっていた。なのに3人はプリントを全然終わってなかった。




「ね、ねぇ凛?」




「何?」




美華が話しかけるとゆっくり振り向いた凛。その顔はまだお怒りのようだ。





「そろそろプリントやらない?ほら、終わらせないと帰れないし」







「プリント...。やらなきゃいけないか。よし、やろう...!」






凛の気合いも戻って補習を再開した3人。途中、集中力が切れるも、なんとか夜を回る前に終わらせることが出来た。






プリントを終えた3人は職員室に提出しに行った。






「時間かかったな。待ちくたびれたぞ」






先生は本当に待ちくたびれていたのか、机の上はコンビニ弁当とお菓子の食べた痕と、毛布と枕とアイマスクが。





とくに仕事はしてなかったようだ・・・。






「これでも精一杯頑張りました」







「原田。お前スペル間違ってるぞ?」






「えっ!?」





ただでさえ不機嫌な凛。これ以上追試をやっていたら凛の我慢の限界は超えてしまう。





美華と紬は恐る恐る凛の表情を確認すると、やっぱり凛は不機嫌な表情をしていた。





凛の不機嫌な顔を見た先生は今まで見たことがないくらい怯えていた。




「嘘だうそ。よーしお前らの補習はこれで終わりだ。明日からまた頑張るように!」
これ以上凛に追試をさせたら自分が危険だと思った先生は今日はここまでにしようと3人に補習の終わりを宣言する。






「「「はい!」」」







提出を終えた3人は帰り支度をして校門に向かっていた。その時、紬があることを思い出した。






「そうだ。もう少ししたら白矢くんが駅に着くと思うよ」





凛がそれを聞いて、目を見開いて紬の肩を掴んだ。





「それほんと!?」






「ほ、ほんとほんと。今から行けば、白矢くんと合流して日和の話を聞けるんじゃない?」






「行こう!走っていけば必ず会える!」






「走らなくても会えるよ!美華行くよ!」






「走るの!?もう、明日は筋肉痛だよー」






凛たちが走って十分がたった頃、駅には白矢が乗った電車が着いていた。






「やっぱり3時間は長いな。早く帰って寝るか」
白矢はまっすぐ家に帰ろうとしたら、どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。







「白矢ー!」






「凛、待ってまってー!」




学校から全力疾走。凛は白矢から日和の話がどうしても聞きたくて紬と美華のことは考えずに、5分間休み無しで走ってきた。






「春夏冬に原田!?」








「ちょっとー!置いていかないで....」







遅れて美華も合流。走るのが苦手な美華は膝に手を当てて息を切らしていた。







「川口も。お前らこんな時間に何してるんだ?」






さすがに休み無しで走ると息をするのも大変。3人はしばらく息を整えてからここに来た経緯を話した。







「日和に会ったんでしょ?だったら早く日和の写真を見せて!」






噛みつきそうな勢いで凛は白矢に襲いかかろうとしたが、白矢は殺気をを感じて直ぐに避けた。





「なんなんだ!?」





「あーあ。凛が我を忘れてるよ。ほんと、日和のこととなると手がかかる」






「川口、冷静に話してないでどうにかしろ!」





「こうなっちゃ手のつけようがないよ。しょうがない。凛、私の家に行くよ。そこで日和の話を聞こう」
紬の一言で白矢を襲うのをやめた凛。






白矢はほっと胸を撫で下ろしたが、紬の言葉を思い返して、嫌な予感を察した。








「おい待て。てことは、俺も行くのか?」







「そうだよ?大丈夫。今日は遅くまで親居ないから」







「俺は疲れたから早く帰って寝たいんだが....」







「なんで日和に会うだけで疲れるのさ?」






「移動時間で疲れたんだ。日和と会って疲れるわけないだろ」






白矢の言葉に違和感を持った3人は目を合わせて確かめた。







「白矢くんが日和を名前で呼んでる...!」







「いつの間に!?」







「日和と何やってきたんだ!?教えろ白矢ー!」