私の言いたいこと...。白矢くんと離れて気づいた自分の気持ち。
胸の鼓動が加速し、日和の緊張は更に大きくなる。
それでも日和は自分の想いを白矢に伝えたい。その想いを振り絞って、ゆっくりと口を動かした。
「私、白矢くんのことが好き。だからこれからのんびりな私を卒業して、もっと白矢くんに可愛いって言われる女の子になりたい。今日は来てくれて本当にありがとう」
最後に振り向いて日和の日向のような笑顔が、白矢は胸の鼓動を加速させた。
「俺も、今日会えて本当によかった」
「白矢くん」
緊張しながら伝えた気持ちはしっかりと白矢に心に伝わった。
組んでいた腕にもう一度力を入れて、日和を包み込むように抱きしめた!
「次会えるのは冬休みだな。それまで日和とは会えないからもう少しこのままでいたい」
温かい。秋風でひんやりとしていた空気が一瞬で春を迎えたような。そんな温もりを感じる。
白矢はゆっくりと日和を離して、その場を立った。
「そろそろ戻るか。寒くなってきたし」
「うん。皆心配してると思うしね」
「日和」
「ん?なーに?」
日和を引き止めた白矢は自分の唇を日和の唇に落とした。
「日和が足りなかった」
「っ...!白矢くんずるいよ」
「ずるいのは日和も同じだ」
「ちょっとそれ、どういうこと白矢くん!?」
私のどこがずるいの?今のは絶対、キスをした白矢が1番ずるいよ...!
こんなに私の心臓をドキドキさせて。どうしよう。白矢くんと離れたくないって思ってしまう。
「教えるはずないだろ?日和の可愛いところをもっと見ていたいんだから」
チュッ
再びされたキスは日和を更に混乱させることになった。
「もう...!白矢くん意地悪!」
むぅー。いつか絶対聞いてみせるんだから...!
白矢の意地悪は納得いかないけど、また少し、白矢との距離が縮まって嬉しい日和だった。
体育館に戻った日和たち。入口の前には桐斗と木乃実、広瀬姉弟が待っていた。
そしてそこで将流が広瀬亜子の弟だと日和に知らされる。
「えぇーーー!?将流くんが広瀬先輩の弟!?」
確かに話し方とかそっくりだったな。
進行とかもスムーズで、待っている間、他の人の告白を聞いている時も楽しかったし。
「この度は弟がご迷惑おかけしました」
将流と一緒に広瀬も頭を下げて皆に謝罪をする。
「中原先輩、矢島先輩。ごめんなさい」
「いやいや気にしなくていいよ。最初は驚いたけど、結構楽しかったよ?ねぇ、木乃実ちゃん」
日和が木乃実の方を見ると、木乃実は腕を組みながら将流の方を見た。
「私も全然気にしてないから。次やるなら嘘なんかつかないで、正々堂々と大会に人を誘いなさい」
まだ納得してない木乃実だが、今日のところはこれで勘弁することにした。
「はい」
将流と和解した日和と木乃実。すると白矢はスマホを取り出して時間を確認し始めた。
「あ、そろそろ時間だ」
「帰る時間?」
日和が聞くと白矢はコクンと頷いた。
「私、駅まで見送るよ」
日和はぴよ吉さんのポンチョを脱ぎ、教室からカバンを持って白矢と一緒に駅に向かう。
駅に着いた2人は最後の会話をしながら電車を待っていた。
「次は会えるのは冬休みだな」
「そうだね。その時はみかっち達にも会いたいな」
白矢くんに会えたのは嬉しかったけど、やっぱり友だちとも文化祭を楽しみたかったな。
「俺は日和と2人がいいな。あの3人が来たら日和とゆっくり出来ないし。日和を一人いや、3人占めされる」
確かにみかっち達がいたら私を離しそうにないだろうな。特にりーちゃん。
白矢くんがそれでヤキモチ妬いてるのはちょっと見てみたいかも。
「何?日和変なこと考えているでしょ?」
「な、なんにも考えてないよ...!」
「顔赤い。俺に隠し事するなんて悪い子だな」
「え?」
日和の小さい頬っぺを両手で包んだ白矢はゆっくりと、唇を日和に近づけた。
ちょっと白矢くん!?まさかまたキスするんじゃ!待って待って!心の準備が。
ていうか、さっきも心の準備ができてなかったのに、またキスするなんて...!私、耐えられないよ!
「トリック・オア・トリート。お菓子くれないとイタズラしちゃうぞ?」
「へ?あの、白矢くん。キスは?」
唇をとがらせて白矢からのキスを待っていた日和だが、期待を裏切らぎられてしまう。
「なんの事?悪い子の日和にそんなことするわけないでしょ。それとも期待した?」
自分の勘違いに気づいた日和はみるみる顔が赤くなっていった。
「もう...!白矢くん本当に今日は意地悪なんだから!.....意地悪ばかりされると白矢くんに触れずらいよ」
「触れたいの?俺に」
「・・・!ち、違う!今のはその....。トリック・オア・トリート。お菓子くれないとイタズラするよ?」
触れたいのは本音だが、日和はそれを言うのは恥ずかしく、思わずトリック・オア・トリートと言ってしまった。
むぅっと膨れながら上目遣いで白矢にトリック・オア・トリートと言うと、白矢は参ったなという顔になった。
「ふふっ。今はあいにくお菓子は持ってないな。だからそのお詫びとしてイタズラするね?」
今度は遠慮しないで白矢は日和の口にキスをした。
「可愛い」
「むぅ〜」
またそうやって、不意打ちで...。私が仕返しする隙が全然ない。
日和が膨れた顔を覗き込んで満足そうな笑みを浮かべる白矢。
こんな間抜けな顔、見せたくないよ。白矢くんはなぜか嬉しそうだし。
キキーッ!
電車が到着した。白矢はリュックを持って、電車に乗り込んだ。
もう来ちゃったんだ。時間が短く感じた。これで終わるなんて虚しいな。
冬休みまでまだまだ日数はあるし。それまで私は我慢できるかな?
でも今は白矢くんを送り出そう。私が引越し時みたいに。ここで悲しんだら白矢くんを困らせることになるから。
「白矢くん。冬休み、絶対会おうね!」
「あぁ、必ず会いに来る。離れていても俺はいつも日和の傍にいるから」
そう言って、白矢は日和のカバンに付いているぴよ吉さんを指さした。
「うん...!」
ピピーッ!
アラームが鳴り、ドアが閉まり出した。
「白矢くん。またね!」
「またな、日和」
大きく手を振った日和。白矢もそれに応えるように手を振った。
ドアは完全に閉まり、電車は目的地を目指して走り出した。
白矢くん。私、今日会えて良かった。実は言うと、最近ちょっと不安になっていたんだ。
転校して初めての文化祭で上手く出来るかな?って緊張していて。
そこに白矢くん来てくれて安心したから文化祭、楽しむことが出来たよ。ありがとう。
ぴよ吉さんはやっぱり凄い。私と私の周りの皆を繋いで、笑顔にしてくれる。
私はこれからもずっと、皆といたい。
楽しいことも辛いことも皆と乗り越えて、そして笑顔でいたい。
私の名前は皆に笑顔を届けられるように願われた名前。
だからこの名前に恥じないように、これからも笑顔を絶やさないでいるよ。
白矢が日和との再会を楽しんでいる中、苦痛の声をあげている3人の女の子たちがいた。
「美華〜」
机に寝そべりながら紬に声をかけると美華と。
「紬何〜?」
口と鼻の間にペンを挟んで現実逃避している紬。
「ここ分かんない」
「あたしも分かんないよ。凛は?」
凛は飽きて椅子から立ち、窓側に移動した。
「さっぱり。こんな時、日和がいてくれたらな...」
美華たちは秋晴れの空を見上げながら転校した日和のことを思い出していた。
ガラッ!
「川口、春夏冬、原田!お前らまだやっているのか!?」
「先生これ難しいよ」
3人に補習するように命じた先生が様子を見に来た。
プリントをペラペラとしながら凛は先生に抗議した。
「あのな、これは中間テストと同じ問題なんだぞ?教科書見れば大体の分かる」
そんなことを言われても分からないものはわからないと思う3人。
「それで分かったら苦労しないよ。見てくださいよあの紬の顔。目が死んでますよ?」
「春夏冬。お前な...」
「数字や英語がいっぱいで分かりません」
「ったく。今日中には終わらせろよ?終わったら職員室の先生の机に置いておけ。じゃーな」
「教えてくれないんですか?!」
「川口甘えるな。優しい中原じゃないんだ。諦めろ」
そう言って先生は教室を出ていった。
「ありえない。あれでも教師?」
「紬、次は顔が怖くなっているよ。あーあ。日和がいれば優しい言葉をかけてくれるんだけどな」
「凛は相変わらず日和大好きだね。まぁ、確かに日和がいればこんなの昼には終わるのにね」
美華たちは同時にため息をついた。
日和がいない寂しさが思い出す度に心から落ち込む。それだけ4人は仲が良かったのだ。
今回の主人公は、4人のまとめ役の川口 美華(かわぐち みか)。情報通の春夏冬 紬(あきなし つむぎ)。皆の母的存在の原田 凛(はらだ りん)。
白矢が日和の文化祭に行っている間、3人は補習に明け暮れていた。
理由は中間テストで赤点を取ってしまったからだ。
時は遡ること、3週間前。
当初は、白矢含め、美華たち4人は一緒に日和の学校の文化祭に行くことになっていた。
「ねぇねぇ皆!日和の学校がもうすぐ文化祭なんだって。皆で行こうよ!」
その情報を持ってきたのは、日和大好き凛。
「情報通の紬より早いね。さすが凛」
美華がそう話すと凛は腰を手を当ててドヤっとした。
「その日って確か、開校記念日だったよね?ちょうどいいじゃん!」
「ほんとだ!そこまで気づかなかったよ。さすが紬!」
イェイとハイタッチをする凛と紬。ただそれは誰も知っていることだったので白矢はそれほど驚かなかった。
「普通そこは覚えているだろ」
凛のおっちょこちょいにため息をついて呆れる白矢。
「けどさ、その前に中間テストだよ」
美華がテストのことを言うと、紬と凛はハッとする。
「美華、それは禁句だよ。ちゅ、中間テストなんてこの世にあっていいものじゃ....」
凛は床に崩れてテストという言葉に罪悪を抱いた。
「え?」
美華がその状況を把握出来てない。
そして続けて紬も胸を抑えてテストへの苦痛な気持ちを述べた。
「そうだよ。それは1番考えてはならない学校行事...。私たちには無縁のものだよ」
「単に勉強が嫌なだけだろお前ら」
白矢にとどめを刺された凛と紬。美華は何となく2人の気持ちが理解出来る。
美華も2人と同じく勉強が苦手。しかも今回は頭のいい日和がいないため、頼れる人がいない。
3人とってはそれがかなり絶望的だった。
「白矢くんには分からないの?私たちの気持ち」
紬は目に涙を浮かべて白矢に言ったが、白矢は動じず、ただため息をつくだけだった。
「これが学年上位の余裕か。美華、凛。3人で力を合わせて頑張ろう...!」
紬が手を出すと、美華と凛はその手の上に手を重ねて、頷いた。
そして中間テストの日。美華たちはいつも以上に気合が入っていた。日和に会いたい。その気持ちを胸に、テストに挑んだ。
「あれだけ頑張ったのにさー。3人揃って、あと少しのところで1教科ずつ赤点って....」
「美華は化学、凛は英語。私は数学...」
「「「はぁ....」」」
「「「くしゅん!」」」
ため息をつき終わったら次はくしゃみが出た3人。それは日和たちが噂をしたものだった。
「ねぇ、あの時のアイツの顔見た?」
「アイツ?あぁ、白矢くんね。めっちゃ嬉しそうだったよね」
「あたしも見たよ。1人で日和に会えて嬉しいって顔に出てたもん。てか、紬が白矢くんもアイツと呼ぶなんて、めっちゃ怒ってるな....」
「そりゃそうだよ。1人だけ日和に会えるなんて羨ましい。でも美華。見てみな、凛の方がやばいから」
紬に言われて凛の方を見た美華。そこには負のオーラが全身を包んでいる凛の姿があった。
「暗い...」
その姿に引く美華。凛はそれに気づかず、ブツブツと言いながら、ノートに何かを書いていた。
「私を差し置いて1人だけ日和に逢いに行くなんてずるい。ずるすぎるよ。1人で行ったからには、キスくらいはしたんでしょうね?日和泣かしたらまじ、許さない...!」
「凛が怖いよ紬....」
「テストの点数見た時より恐怖だよね」
お互いの手を握って凛の姿に震える美華と紬。気づけば夕方になっていた。なのに3人はプリントを全然終わってなかった。
「ね、ねぇ凛?」
「何?」
美華が話しかけるとゆっくり振り向いた凛。その顔はまだお怒りのようだ。
「そろそろプリントやらない?ほら、終わらせないと帰れないし」
「プリント...。やらなきゃいけないか。よし、やろう...!」
凛の気合いも戻って補習を再開した3人。途中、集中力が切れるも、なんとか夜を回る前に終わらせることが出来た。
プリントを終えた3人は職員室に提出しに行った。
「時間かかったな。待ちくたびれたぞ」
先生は本当に待ちくたびれていたのか、机の上はコンビニ弁当とお菓子の食べた痕と、毛布と枕とアイマスクが。
とくに仕事はしてなかったようだ・・・。
「これでも精一杯頑張りました」
「原田。お前スペル間違ってるぞ?」
「えっ!?」
ただでさえ不機嫌な凛。これ以上追試をやっていたら凛の我慢の限界は超えてしまう。
美華と紬は恐る恐る凛の表情を確認すると、やっぱり凛は不機嫌な表情をしていた。
凛の不機嫌な顔を見た先生は今まで見たことがないくらい怯えていた。
「嘘だうそ。よーしお前らの補習はこれで終わりだ。明日からまた頑張るように!」