ガラガラガラ
「おう」
ドアを開けるとそこには桐斗が。
実は日和は事前に、桐斗に祖母の家に来るようにメールを送っていた。
「矢島さーん。お迎えだよ」
「誰が?...桐斗!?どうしてここに....」
目を見開いて驚く木乃実。顔を合わせた桐斗も少し気まづそうだ。
「よう」
普段は騒がしくなることのない祖母の家の玄関。この日は珍しく話し声が聞こえたため、祖母は気になって玄関に顔を出す。
「あらあら小柳さんとこの桐斗くんじゃないの。大きくなったわね」
桐斗と日和の祖母も久しぶりに再開。同じ町に住んでいるが、会うことはほとんどない。
「日和のおばあちゃん。お久しぶりです。木乃実を迎えに来ました。帰るぞ木乃実」
「で、でも...」
まだ気まづい木乃実は桐斗と帰るのを拒んだ。その様子を見て、日和は木乃実の手を握った。
「大丈夫だよ。おばあちゃんから貰った勇気を信じて」
「うん」
暗い夜道。聞こえるのは虫の声だけ。木乃実はいつ、話を切り出すか迷っていた。すると先に話してきたのは桐斗だった。
「衣装、手芸部行って見たよ。凄かった」
「ありがとう」
木乃実が放課後、どれだけ頑張っていたか。それがドレスに現れて桐斗はようやく木乃実の気持ちを理解することが出来た。
木乃実は今だと思い、立ち止まって桐斗に頭を下げた。
「ごめんなさい...!あんなことを言って...。私、自分勝手だった。本当にごめんなさい」
「謝るのは俺の方だ。木乃実の気持ちに気づかないで、あんな態度をとって...。俺こそごめんなさい」
「桐斗....。いいよ、もう。ねぇ、桐斗」
「何だ?」
「これからも一緒にいてくれる?」
謝ることが出来たら、1番に確認したいこと。これで離れることになるのは仕方ない。
「当たり前だろ。俺たち友だちだろ?」
「友だちか」
友だちより、恋人関係になりたい木乃実にとって、桐斗の返答はちょっと歯がゆかった。
それでもこの日は自然と笑顔になれた。今はまだ、恋人より、大事な友人として桐斗の隣にいたい木乃実。
いつかこの想いを伝えるその日まで、木乃実はその胸に想いをしまっておくことにした。
時は少し遡り、舞台は日和が転校前に通っていた高校へと移る。
教室には白矢、美華、紬、凛の4人がなにやら日和について話していた。
「いいなー白矢くんだけ日和のところに行けて」
そう話すのは日和の友だちの1人、凛。
「仕方ないでしょ。うちらはその日補習なんだから....」
落ち込む美華の肩に手を置いて同情する紬。
「美華落ち込まないで。冬休みには会えるんだから。ここは白矢くんに任せよう。てことで任せたよ!」
「任せたって....ただ文化祭に行くだけだろ」
「「「羨ましいんだよ!」」」
ビクッ!
そう、白矢は日和に内緒で文化祭に行くことになった。美華たちは残念ながら追試。
日和を独り占めする白矢に嫉妬心を抱きながら、白矢を送り出すことにした。
「ようやく会えるな」
引っ越す時に撮った写真を見ながら白矢は呟いた。日和がどんな反応するか、悪い虫がついていないか心配な白矢。
そんなこんなで、時は過ぎ、いよいよ再会の時がやってきた。
学校中から今か今かと文化祭が始まるのを待つ声が響きわたる。
日和もその1人。制服の上から祖母と共に作ったぴよ吉さんのポンチョを羽織って、フードを被った。
えへへ。似合うかな?みかっちたちは可愛いって言ってくれたし。....白矢くんからは返信こなかったな。
矢島さんの気持ちがわかった気がする。
えーい!こういう時はぴよ吉パンのカスタード味を食べて気分上げよう。
カバンからぴよ吉パンを取り出して、ハムスターのように食べ始めた日和。
もぐもぐもぐもぐもぐ..... もぐもぐもぐもぐもぐ...
「おお!!」
もぐ?
なんだか男子たちが騒がしいな。どうしたんだろ?
振り返ってみると、そこにはドレスを着た木乃実の姿が。男子たちはそれに釘付けになっていた。
矢島さんやっぱり綺麗だな。パンプスに、アクセも付けて。
それに、髪も巻いてアップにしている。これは男子たちが騒ぐわけだ。
女子の私でも見惚れるもん。
「矢島さん。俺と一緒に学祭回らない?」
「抜けがけだ!矢島さん。こんな奴より俺とどうですか?」
必死にアプローチする男子だったが、木乃実は気にもしないで桐斗のほうに駆け寄った。
「桐斗、似合う?」
「ああ。似合うぞ。さすが木乃実だな」
あれから木乃実は桐斗に正直な気持ちを伝えることが多くなった。それだけじゃない。
「日和」
「なーに?やじ...木乃実ちゃん」
日和と木乃実はお互いを名前で呼び合うことも多くなって、前より話す機会も増えるように。
「私たちって、確か午前の当番だったよね?」
「そうだよ。頑張ろうね!」
「うん。てか日和のぴよ吉さん可愛い」
あまりの可愛さに日和の頭を撫でる木乃実。撫でられている日和はなんだか嬉しそうだ。
「ありがとう。木乃実ちゃんもドレス似合ってるよ。大人っぽい...!」
「ふふ。ありがとう。それに比べて。桐斗はなんでカボチャの被り物だけなの?被るだけじゃん」
桐斗はカボチャの被り物。しかも、激安スーパーで買ったやつだった。
「生徒会の仕事で作る暇なかったんだよ。それに、他の奴らだって買いに来てたぜ?」
「生徒会って言っても会計でしょ?計算するだけじゃん」
「その計算がどれ程大変かお前には分かるか!?数字が沢山あって、頭の中バカになるところだったんだぞ!」
「バカじゃなくてカボチャになったんだからいいじゃん。それに、数学嫌いなのに会計なんかやるからそうなるんでしょ!?」
図星な事を言われて桐斗の心は傷ついた...。
ケンカが前より表に出る機会も増えました。グイグイ押している木乃実ちゃん、初めて見たよ。
それにしても頭がバカじゃなくてカボチャになったって...。
「ふふふ...!」
想像したら笑いが堪えなくなった日和。
「日和、何笑っているんだよ?」
「なんでもない」
そして始まった文化祭本番!
日和たちは農家さんから貰った、形が不揃いの野菜や果物を使った料理をこの学祭で作って売っている。
日和のクラスは他にも、クラスメイトの家の牧場からお肉を貰っていっそう豪華になった。
朝から沢山のお客さんが来店して、開始直後から大賑わい。
そのため朝から大繁盛をする。大忙しの中、桐斗はある、1人の男性を席に案内した。
「日和、2番テーブルにアイコーヒーお願い」
木乃実から注文を聞いて、日和はアイスコーヒーを作り、2番テーブルに向かった。
あれ?あの制服見覚えがあるような...。
えっ!?
「は、白矢くん!?...わっ!」
「危ない...!」
驚いてアイスコーヒーをこぼしそうになったが、白矢が受け止めて間一髪、それを回避した。
「なななな何で白矢くんがここに?!」
状況が読めない日和は片言の口調になって、白矢に質問した。
「サプライズ。今日は学校、開校記念日だから中原に会いたくて来たんだ。驚いた?」
「驚くよ。あ...!アイスコーヒーです」
「ありがとう。中原それ、ぴよ吉さんのポンチョ?似合ってる」
「あ、ありがとう...!」
白矢くんに似合ってるって言われた。嬉しい。
「メール。きたのは知っていたんだけど、どうせなら直接見て、感想言いたくて。不安にさせたよな」
「不安だったけど、白矢くんに似合ってるって言われて嬉しかったから許します」
「おい日和。いつまで話してんだ?」
「あ、桐斗くん」
見知らぬ男が来て、白矢はすぐに立ち上がり、日和を背に隠した。
「お前、日和の何なんだ?」
もちろん、桐斗は白矢とは初対面。なので、日和にナンパしている悪い男だと思い、威嚇をした。
日和は危機感を感じてすぐに2人の間に入って、白矢のことを説明する。
「桐斗くん。この人は白矢誉くん。わ、私の彼氏だよ...!」
「えっ!?こいつが...」
初めて見た日和の彼氏。桐斗は聞いた時からどんな男か気になっていた。
それが今日、目の前にいるなんて思ってもみなかった。
「だからそんなに威嚇しないで。もう白矢くんも...!ダメだよ。ケンカなんてしちゃ」
「すまない...。もう、しないから」
修羅場になりかけていたが、日和の一言で収まった。
するとそこに、同じくクラスの女子が来て、交代を知らせた。。
「中原行くよ」
「え!?は、白矢くんちょっと...!」
少しでも長い時間を過ごしたい白矢は、その合図と同時に、日和の手を引いて教室を出ていった。
「桐斗、日和は?」
日和がいなくなったことに気づいた木乃実は桐斗に行方を聞いた。
「日和の彼氏が来て、出ていった」
あまりの衝撃的な出来事に桐斗は呆然とし、その場を動けなくなった。
「日和って彼氏いたんだ」
木乃実は桐斗に比べて平然としている。
日和を連れ出した白矢はようやく足を止めて、手を離した。
「はぁはぁ。疲れた..」
「ごめん。早く一緒になりたくてつい」
「いいよいいよ。そういえば、みかっちたちは来てないの?」
「あの3人は補習。この前のテストがやばかったらしくて。ほんとは一緒来る予定だったんだけど」
「あはは。相変わらずなんだね」
みかっち、つーちゃん、りーちゃんファイト!心の中で応援する日和。
その応援が届いたのか、同じ頃、補習を受けている美華たちはくしゃみをしていた。
「それより、さっきの男誰?なんか中原のこと、名前で呼んでいたけど」
「小柳桐斗くんっていって、私の幼なじみなんだ。小さい頃、ここに住んでいた時に保育園が一緒だったんだよ」
「ふーん。日和はアイツのこと、名前で呼んでいるんだ」
「うん」
「俺も今度名前で呼んで?彼氏の俺を差し置いて、名前で呼ぶのはずるいから」
白矢くん嫉妬しているのかな?明らかに目が笑ってない。
「分かったよ。今度呼ぶね?」
「うん」
笑った。分かりやすいな。
「じゃあ行こうか。出店回りに。ん」
白矢は手をもう一度、日和に差し出した。
「転校してから寂しかった分、今日はずっと一緒にいるから」
「・・・!!」
な、何急に。白矢くん、私が転校してからなんか変わった?目を合わせずらいよ。
「なんで逸らすんだ?こっち見てよ。日和の顔、見れないと楽しくないから」
「だって....急に恥ずかしくて」
急に恋人みたいなことする白矢くんがかっこよく見えて。なんかずるい。私ばかりドキドキして。
「久しぶりだからだろ?それは俺も同じだ。恥ずかしくたっていいだろ。それに、手を繋げば、『俺のもの』だってさっきの幼なじみに見せつけられるし」
「なっ!?」
益々恥ずかしくなった日和は顔から火が出るほど熱くなった。
「もう覚悟を決めて繋がないか?」
「う、うん」