【完】好きだからそばにいるんだよ

朝日が好き。私に最高の目覚めを与えてくれる。







暖かい光を浴びながらぴよ吉さんのぬいぐるみをギューッとしてから起き上がる。








ココアを飲んでホッとひと息。制服に着替えてたら忘れ物がないか確認してパンを食べながら登校する。







これが私の朝のルーティン。







「ぴよ吉パン美味しい〜」







「日和またパン食べてる」







「みかっちおはよう」







「たまには野菜食べないと肌、荒れるよ?」







「つーちゃん!もぐもぐ」







「パン命の日和には何言ってもダメだよ」







「りーちゃん。おごご!」







「食べながら『おはよう』言わないでよ...」






ゴクン






「ごめんねりーちゃん。おはよう」







「おはよう日和」







無邪気な笑顔で朝の挨拶をしたこの子は中原 日和(なかはら ひより)。高校2年生の女の子。







日和の実家は両親が営むするパン屋さん。幼い頃からパンに囲まれた生活をしている為、パンがなきゃ生きていけない。








友人から密かに『パンバカ』と呼ばれている。








「パンばかり食べて太ったら白矢くんに嫌われるよ?」







つーちゃんこと、紬(つむぎ)が日和を指摘した。








「いや、もう遅いでしょ」







「凛(りん)、あたしもそう思ってたよ...」








「だよね美華(みか)。白矢くんは何で日和を選んだのか不思議でしょうがないよ」








凛がそう言うと、紬と美華は同時に頷いた。

「皆ひどいよ。それに白矢くんは私が太っても好きでいてくれるよ」







「その白矢くんと春に付き合ってから手すら繋いだことのないのはどこの誰だっけ?日和」








「りーちゃん顔が怖いよー」









りーちゃんの言う通り、彼氏である白矢くんとは手も繋いだことない。それって普通なの?









そもそも付き合うって何をしたらいいの?









教室に着いてからも日和と白矢の話題で持ち切り。








「とりあえず進展がないのはどっちが原因か、皆で考えよう」








仕切り始めたのは美華。








「まずは白矢くんから。白矢くんはルックス完璧。顔も鼻筋が通っていて、キレ目がとても美しい。性格は控えめだけど、学年関係なく女子に大人気!密かに女性の先生から狙われているらしい」





女性の先生からも!白矢くん凄い...!








「紬、あんたはどこからその情報を持ってきたの....」






凛は紬の情報収集力に驚いた。これほどまでに情報を集めるには、沢山の人脈がいる。







普段は4人で行動していることが多く、他の学校の人とはあまり話すことがない。そんな中で紬はより多くの情報を集めていた。










「凛知らないの!?この学校じゃ有名な話だよ」








「そ、そうなんだ....」







「おほん。次に日和について。はい、凛」








「皆まだやるの?」








本日2個目のパンを食べている日和。そんな日和をお構い無しに3人は話を続けた。






もぐぐ。いつまで続くのかな?







「えーと、日和はパンバカで、背も平均よりは小さい。それなのに顔以外は痩せていて目もまん丸で、ふわふわのヒヨコみたいに可愛い....あれ?」








りーちゃんが悩んでいる。しかもパンバカって言った!どうせ私は、小さな小さなヒヨコだもん。








可愛いは嬉しいけどさ。





「凛、そんなに悩まなくても。ここは情報通の紬の出番だね。えーとそれから、成績も悪くなくて運動神経も悪くなくて誰にでも優しい!悪いところなんて....」
凛と紬は頭を抱え始めた。日和と白矢に関して悪いところが見つからないからだ。








さっきまで仕切っていた美華も言葉が出なくなった。







話さなくなるみかっちは珍しい。いつもは話の中心となって、皆を楽しませるムードメーカー的存在。







そのみかっちが言葉がなくなるなんて...。やっぱり私たちって変、なのかな?







「ねぇ、日和」







「何みかっち?」







「2人はさ、どうやって付き合ったの?」







「うーんとね、白矢くんから告白されたの。初めて男子から告白されてびっくりしたな」








「紬、凛。これを聞いてどう思う?」








「謎が深まった。紬は?」








「それな!しか言えないよ...」







3人はさらに頭を抱えた。







「3人して頭抱えないでよ〜。もぐもぐ」








困りながらもパンを食べ続ける日和。









口をもぐもぐしていると背の高い男子が日和の後ろに立っているのに気づいた。








「そろそろ席に座っていいか?」







「白矢くん。おはよう」






「ん。今日もぴよ吉パン食べているのか」








「そうだよ。白矢くんも食べる?」








無表情な白矢。日和の頬っぺに付いていたカスタードクリームを指で取って舐めた。







頬っぺにクリームが付いていたんだ。私、いつも付いているんだよね。








「今はお腹空いてないからコレで充分」








さっきまで頭を抱えていた3人は白矢の無意識な行動に驚いて席から立ち上がった。








「白矢くん少食だもんね」








「何、この空気...」








「つーちゃんどうしたの?みかっちにりーちゃんも」







白矢の行動に動じない日和は3人が何故、動揺しているのか分からなかった。








そんな日和を見て、3人は誰もが言いたくなるアノ言葉を2人に言い放った。









「「「リア充爆発しろ!!」」」
急に大声を出されてパンが詰まりそうになった。なんとか飲み込んでホッとした。







「中原」







「なーに?」







「今日も中庭でお昼食べるの?」







「うん。白矢くんも一緒に行こう」







「ああ」







白矢 誉(はくや ほまれ)くん。春から付き合っている私の彼氏です。







白矢くんは普段は低血圧なのかよく居眠りをしてるんだ。








今日も中庭に入るお日様を浴びて、お昼ご飯を食べている私の隣で寝ています。








「白矢くんお昼ご飯食べないの?」







「今はいい...」







私たちの会話はいつもこんな感じ。皆はこれが変だと言われる。恋人同士の会話じゃないって。








朝の会話を振り返った日和。最後に美華に言われた言葉が頭をよぎる。








『いい日和。日和はもっと白矢くんの彼女だという自覚を持ちなさい!じゃないと他の女子にすぐ取られるからね!』








みかっちはあんなこと言ってたけど、自覚を持つってどうしたらいいの?








ちらっと白矢の方を見て、お弁当のおかずの卵焼きを白矢の口に近づけた日和。








卵焼きに気づいた白矢は無言で口を開けてひと口で食べた。








あ、食べた。







「美味しい?」







「うん」







そしてまた眠りに入った白矢。日和は残りを食べながら白矢について考え始めた。









そういえば何で白矢くんは私に告白したんだろ。









最初は告白されてびっくりして、その勢いでOKしちゃったけど、改めて考えると白矢くんは私の何を気に入ったのかな?
遡ること5か月前。新学期が始まって、新しいクラスになった日和は今と変わらずパンを食べてのんびりとお日様に当たっていた。









「今日もぴよ吉パンは美味しい〜。お日様も暖かくていい新学期日和だな。もぐもぐ」








学校の中庭は年中お日様が当たる唯一の場所。







パンを食べながらその場所を目指していた日和。







目的の場所に着いて日向ぼっこをしながらパンを食べているとそこに白矢がやって来た。







「中原さん」







「もぐもぐ。えーとどちら様ですか?」







わぁ〜。カッコイイ人。先輩かな?








まだクラスが変わったばかりで白矢のことを認識していなかった日和。








それとは逆に、白矢は日和のことを知っていた。








「同じクラスの白矢だ。単刀直入に言う。俺と付き合ってほしい」







ん?付き合う?私と?







夢中になっていたパンが日和の口から離れた。驚いてしばらくキョトンとしていた日和。









「あの、中原さん?」









「う、うん。えーと、その...いいよ?」







いい人そうだし。いいよね?







初めて男子から告白された日和は状況を把握しないまま告白をOKし、それから2人は付き合うことになった。








そして時は現在に戻る。








「中原」








「なーに?」








「俺が来る前、皆と何話していたの?」








「んとね、私たちが全然恋人っぽくないって皆が言って。それで私たちのどこか悪いか話していたの」









「どこか悪いところあった?」








「悪いところは出てこなくて皆逆に頭を抱えていたよ」
「良かったな。悪いところなくて」







「そうだね」









これが本当にいいのか。







悪いところがあった方がお互いを理解出来るんじゃないのか。








日和はそう考えながら昼食を終えた。









「日和、午後はアンパンなんだ」







「ん?もぐもぐ。りーちゃん。なんかさっきから頭がモヤモヤしててね。それでアンパン食べたくなって.....」









「な、何言ってるか分からないけどそうなんだ....」









気分が落ち込んでいたり、悲しいことがあるとアンパンを食べたくなる日和。ちなみに餡は粒あんだ。









日和いわく、粒あんの粒が涙の雫に似ているから食べているのだとか。










日和は次の日もアンパンを食べていた。その度に難しい顔をしていた。







美華たちはそんな日和に違和感を覚えた。









学校からの帰り道。日和は変わらずアンパンを食べながら難しい顔をしていた。









「日和昨日から難しい顔しているけど、どうしたの?」









紬が話しかけると、日和はアンパンを咥えながらピタッと立ち止まった。









「むぐぐ...。そんなに難しい顔してた?」









アンパンを口から離して紬の質問に答えた。








「してるしてる。てか、アンパン食べている時点でなにかおかしかったもん」








「紬の言う通り。日和がアンパン食べている時って、何か悩んでいるときだからすぐ分かるよ。ねぇ、美華」









「そうそう。中学から一緒のうちらだから分かる日和の特徴。で、何をそんなに悩んでいたの?」
「あのね、白矢くんと私が恋人っぽくないって皆に言われてから何となく白矢くんとの関係がよく分からなくなって。それからずっとモヤモヤしてて....」









「ごめん!」







日和の心情に気づいて美華がいち早く謝った。








「みかっち!?」







なんでみかっちが謝るの?全然悪いことしてないのに。








「日和がそんな風に悩むなんて思わなくて...。ごめんね本当」









「私も...!無神経なことばかり言ってごめん!」









「つーちゃん」









「日和と白矢くんが上手くいかなくなったらあたしたちの責任だよ。嫌な思いさせてごめんね日和...」








「りーちゃんも。皆が謝ることないよ!私も白矢くんのこと、全然知らなくて...。そんな私を見て少しでも彼女の自覚を持っても言われて嬉しかったよ」








「日和...」








「みかっちが悩んでいたら私だって、絶対そう言うよ。つーちゃんとりーちゃんにも...!」









良いところも悪いところも指摘して自分自身も、お互いもより、知っていく。それって大切なことだよ。









「皆がいなかったら私は何も分からないまま、白矢くんと過ごすことになっていたと思う。だからありがとう皆...!」








「日和〜!」








「りーちゃん!?」







凛は日和の優しさを痛感して日和を抱きしめた。








「もう、いい子すぎ!可愛い!」







りーちゃんのハグはいつも力強い。中学の時からこんな感じに私にハグをしてくるんだけど、身動きがなかなか取れないんだよね。







あ。そろそろ足がつっちゃう...。







「凛、日和が潰れそう...」







紬がそう言っても凛は日和を力いっぱい抱きしめ続けた。








「可愛すぎるんだもん。いい子すぎるんだもん!こんないい子はあたしが彼女にしたいくらいだよ」
「りーちゃん。私は白矢くんの彼女だよ...!」







「それでもいいー!」







予想以上に凛が日和に溺愛している姿を見て紬と美華がドン引きしていた。







「ねぇ、紬」







「何、美華」







「前から思っていたけど、凛ってさ...」







「ああ。思ってた。絶対アレだよね」







「うん。まあ、言わないでおこう」







「日和大好きクラブ隊長ってことで」







「了解。ほらほら2人とも、そろそろ帰るよ」







「「はーい」」







帰り道で友情を再確認した4人。それと同時に凛の日和好きが度が過ぎていることが判明した。









次の日の午後。お昼ご飯を食べた後の5時間目の授業は数学。








皆お腹がいっぱいなうえに、よく分からない計算や記号で眠くなる。







日和もその1人だった。







数学は苦手。理科なら得意なんだけどなー。白矢くんも寝てるのかな?








日和の後ろが白矢の席。自習時間関係なく寝ている白矢。だけどすぐに先生に見つかっては問題を答えさせられるのがしょっちゅうだ。







「ふぁ〜.....」







眠くなってきた。このまま寝ちゃおうかな....。






トントン







白矢くん?








寝ていたはずの白矢が日和の背中を突っついた。








後ろを向こうとした瞬間、白矢からノートの切れ端のようなものが渡された。








『最近ぴよ吉パン食べてないけど、どうかしたか?アンパンも美味しいよな』