【完】好きだからそばにいるんだよ

「桐斗くん。告白してくれてありがとう。凄く嬉しかったよ。でも、私には今、大事な人がいて、その気持ちには応えられません。ごめんなさい。それでも、私は桐斗くんとこれからも親しい友だちでいたい」









これが私の桐斗くんへの気持ちだ。桐斗くんとはこれからも親しい友だちでいたい。









私は、その関係を壊したくない。それは、他の皆ともそう。






みかっち、つーちゃん、りーちゃん。木乃実ちゃん、広瀬先輩と将流くん。








そして、白矢くんも。皆みんな、私の大事な人たちだから。







「そんなに改まられるなんてな。日和、俺はこれからもお前とは1人の友人としてお前の近くにいるつもりだ。ありがとう日和。こんな俺と、友だちでいてくれて」









「こちらこそありがとう桐斗くん。桐斗くんがいたから、転校して来ても、安心できたし、木乃実ちゃんとも友だちになれた。桐斗くんがいたからそれが実現出来たんだよ。本当にありがとう」
「日和....」





「その反応は、まだ諦めきれないのか?」





「白矢...!?」




広瀬たちとテレビを見ていたが、日和が玄関を出るのを見て、白矢も上着を着て外に出ようとしていた。





しかし、日和ともう1人いることに気づいた白矢はドアの隙間から誰がいるのか確認した。






そこにいたのは桐斗だったので安心したが、桐斗が日和に告白していたので、出るに出られなかった。






「白矢くん。もしかして今の聞いてたの?」





「まぁな」





白矢は家から出てすぐ、日和のそばに寄った。






「うわぁ...。立ち聞きとかお前趣味悪いな」






「趣味は良い方だ。お前と同じ、相手を好きになったんだからな」






苦笑いをした桐斗。それでも、悪い気がしなかった。中原日和という、同じ女性を好きになったもの同士だから。







「確かに。同じ相手も好きになった仲だからな。日和こと、大事にしてやれよ?白矢」







「あぁ。俺は日和を絶対に離さない。これからもずっと...。お前がもう一度好きになっても、俺がそれを阻止するからな?」







「それはもう、ないな。俺には他に好きな奴がいるからな」







「それって...!」






日和は桐斗が想っている人物はすぐに検討がついた。長い間、桐斗のそばにいて、尚且つ、その女性も桐斗のことを想っている。







「木乃実だ。まだ内緒だぞ?これは自分から言いたいからな」



はにかんだ笑顔を見せた桐斗の頬は赤く染まっていた。しかし、それは寒さで赤く染まっているのか、恥ずかしさで赤くなっているのか。





それは本人にしか分からない。






「ふふ、分かってるよ。想いが伝わるといいね桐斗くん」





「あぁ」





桐斗くんと木乃実ちゃんがいつか、お互いの想いを伝えられますように。





満天の星空に、日和は願いを込める。今までの2人のことを見てきた日和は心の底からそう、願った。





すると白矢は家の中を気にし始めた。





「白矢、どうした?」






「家の中が騒がしいと思ってな。何かあったのか?」






家の中に入ると、美華が家の電話で誰かと話していた。その様子は、とても焦っている。






「皆どうしたの?」





日和が聞くと、美華はすぐに振り返り、電話をすぐに変わるように言った。





「もしもし?」






『日和?ママよ』





電話の相手は日和の母。とても急いでいる口調で日和に話している。






「ママ、こんな時間にどうしたの?」






『日和、落ち着いて聞いてね。実はおばぁちゃんが救急車で運ばれたの...!』




えっ....?




ゴトン





驚いた日和は受話器を落としてしまった。






おばぁちゃんが運ばれた?一体、何が起こっているの?
今年の大晦日は友人皆で年を越すことにした日和。鍋を囲んで、皆と夜遅くまで楽しい時間を過ごしていた。







しかし、深夜を過ぎた頃、母から1本の電話がかかってきた。そして、祖母が救急車で病院に運ばれたことを告げられる。







『日和?聞いているの?』






はっ....!







「大丈夫、聞いてるよ。病院はいつもの総合病院だよね?今から行くから」








震えた手で、電話を切った日和はしばらく下を向いて状況を整理していた。







「日和、おばさんなんだって?」







そんな日和に先に話しかけたのは美華。美華は先に電話に出て、状況を日和の母から聞いていたため、すぐに日和の心情を理解していた。







「病院にすぐに来てって。おばぁちゃんが今から手術するから....。私、行ってくる」







日和は家を出て、祖母が待つ総合病院に向かった。







「白矢くん、日和をお願い。あの子には今、白矢くんが必要だから。私たちはここで待っている」







美華は日和を白矢に託した。白矢はすぐに日和の後を追いかける。
おばぁちゃん。おばぁちゃん...!





「キャ!」





雪に滑って、転んでしまった。日和はすぐに立ち上がり、足をもう一度動かして病院に向かう。






間に合って。おばぁちゃん、私が行くから。頑張って...!





病院に着いた。日和は息を切らして途中、咳き込むも、深呼吸をして呼吸を整える。





「日和」






あとから追いかけてきた白矢も合流する。すると、白矢の後ろにもう1人いることに気づいた日和。






「木乃実ちゃん!?どうしてここに...」







「私、日和のおばぁちゃんに伝えたいことがあるの。お願い。私も一緒に行かせて」






「ありがとう。一緒に行こう」






「うん」






中に入ると、そこには看護師さんが待っており、日和たちを手術室に案内する。





手術室の前に着くと、日和の両親が扉の前で祖母の手術が終わるのを待っていた。





「パパ、ママ!」





「日和!」





「ママ、おばぁちゃんは?おばぁちゃんは大丈夫なの?」





祖母の容体について、父から説明される。祖母は今、とても危険な状態で、助かる可能性は低いと医師に説明された。






日和は一瞬、祖母の死が頭を横切った。考えたくないが、説明を聞くにつれて頭の中が死の予兆に支配される。





祖母はもとから肺の病気を患っている。運ばれ原因は肺に穴が空き、呼吸困難となって病院に緊急搬送された。






怖い。おばぁちゃんは助からないかもしれないなんて...。そうだ。だから最近、おばぁちゃんの様子が変だったんだ。






「私がもう少し早く気づいていたらこんなことにはならなかった....」






話す時も呼吸が辛そうで...。それでもおばぁちゃんら必ず『大丈夫』と言った。我慢していたんだ。皆に心配かけたくないから。





一番そばにいて、おばぁちゃんの体調にも敏感になっていたはずなのに、私の一瞬の気の緩みがおばぁちゃんを更に苦しめたんだ。






その責任は父も母も同じだと言ったが、日和は自分の責任だと言い続けた。





「私のせいでおばぁちゃんは沢山苦しんだ。私がもっと、しっかりしていればこんな事にはならなかった...!」







目に溜まった涙は日和の頬をつたう。何度も拭った目は徐々に赤く腫れ始めた。







日和の気持ちが痛いほど伝わった白矢は日和の前にしゃがんで、指で日和の涙を拭う。







「日和はしっかりしてる。それはおばあさんにちゃんと伝わっているから、今は祈ろう。おばあさんの無事を」








木乃実も隣に来て、日和の手を握って励ました。







「私も祈る。日和のおばぁちゃんとはまた話したいから。だから一緒に祈ろう?」







「うん、ありがとう。白矢くん、木乃実ちゃん」
祖母の手術から、2時間が経過した。一向に終わる気配がない。






長い。こんなに時間がかかるものなの?不安がさらに大きくなる。それでも1番怖いのはおばぁちゃん自身なんだ。私が怖がっていられない。






「中原さん。少し、よろしいでしょうか?」







看護師さんがやってきて、今の状況を父に説明する。父の様子を見て日和は、祖母の容体がかなり深刻なのを察した。






パパがあんなに思い詰めた顔をするなんて初めて見た。それほど今は危険な状態なんだ。







「日和。看護師さんが手術室が見える部屋に案内してくれるそうだ」






案内された場所は普段、関係者しか入れない。そこでは、モニターで手術の様子を見ることができる他、マイクで指示が出来る。






手術室では今も医師たちが祖母の治療を続けている。





祖母の意識はいまだ戻らない。呼吸も低下しているため、意識が戻らなければ死に至る状態だ。





「おばぁちゃん....。皆で見守ってるからね」





1番初めに日和の母が祖母に声をかける。日和もかけようとしたが、言葉が出ず、椅子に座って見守るしかなかった。
その時だった。手術をしていた医師たちの様子が変わった。




周りには警報音が鳴り響く。その警報音は祖母の心肺停止を知らせるものだった。





おばぁちゃん...!





心臓マッサージ、電気ショックを行ったが、一向に脈は戻らない。





「おばぁちゃん!お願い。戻ってきて...!」





祖母との距離が離れていく。日和は胸が苦しくなって呼吸が荒くなった。





「はーはー...。おばぁ...はっはっ!ケホケホ」





過呼吸が起こり、日和はその場に膝をついてしまった。





「日和!大丈夫か!?ゆっくり深呼吸をして」





苦しい。上手く息ができない。






白矢が背中をさすったおかげで日和の過呼吸は収まっていった。





「大丈夫だ。おばあさんはきっと助かる。俺の方に身体を寄せて」





白矢の服の袖を掴んでゆっくり呼吸をして自分を落ち着かせる。





安心する。白矢くんがいなかったら私はまだ苦しんでいたかもしれない。





おばぁちゃん、私は平気だよ。だからおばぁちゃんも頑張って!
気づけば医師たちの手は止まっていた。これ以上治療を行っても、祖母の脈は戻らないと判断されたのだ。





止めないで。おばぁちゃんを助けて。黙って見てないで、手を動かしてよ。見放さないで...。私から大事な人を奪わないで。






「日和、おばぁちゃんはもう......。ここから最後の言葉をかけよう」





何言ってるのパパ?おばぁちゃんはまだ、死んでない...!





父が声をかけ終わると、次に母が祖母に最後の言葉を送った。





ママまで。2人はこれでいいの?おばぁちゃんはまだ死んでないのに最後の言葉なんて、あんまりだよ...。





「さぁ、日和。おばぁちゃんに最後の言葉を送りなさい」





「いや!おばぁちゃんはまだ死んでない...!パパとママはこれでいいの?おばぁちゃんはまだ生きてるよ!勝手に死なせないで...!」







私はまだ諦めない...!おばぁちゃんは必ず生き返る。私はその可能性を信じたい!







「日和、子供みたいなワガママはよしなさい!見て分からないの?おばぁちゃんの脈はもう、戻らないの。変な意地を張ってないで、素直に受け入れなさい...!」







日和を叱った母の目には涙が溜まっていた。日和が思っていることは父も母も理解している。けど、諦めなきゃいけない時だってある。








祖母の心臓はもう、動かない。手遅れなんだ。日和だって、そんなことは分かってる。しかし日和はそれでも諦めなかった。







それは祖母のそばに、誰よりも近くにいたのが日和だから。






すると木乃実はマイクを前に立って、祖母に話しかけた。






木乃実ちゃん?






「おばぁちゃん分かる?木乃実だよ。この前会ったよね。今日はさ、おばぁちゃんに言いたいことがあって来たんだ。




私ね、日和のおばぁちゃんと出会ってから変わったんだよ。





私の両親は共働きで、朝も早くて会って話す機会が今まで全然なかったんだ。